知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

ロケーションフリーサービスの送信可能化行為の主体

2008-06-29 11:06:55 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)5765
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月20日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『第4 当裁判所の判断
・・・
3 争点2(本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について
(1)自動公衆送信装置
「送信可能化」とは,著作権法2条1項9号の5に規定されるとおり,同号のイ又はロに該当する行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう

 上記イ及びロは共に「自動公衆送信装置」の存在を前提とする行為であり,「自動公衆送信装置」とは,「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」をいう(著作権法2条1項9号の5イ)。

 上記のとおり,自動公衆送信装置は,自動公衆送信する機能を有する装置であり,「自動公衆送信」とは,「公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(・・・中略・・・)を除く。)を行うこと」(同項7号の2)のうち,「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう」(同項9号の4)。

 そして,同法2条5項が「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めていることから,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,「公衆」に対する送信に該当するものと解される

(2)本件サービスにおける送受信行為の主体
・・・
エ本件サービスにおける被告の役割
(ア)本件サービスにおいて,被告が行っていることは,
①ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,
②ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,放送を受信することができるようにすること
である


(イ)①の点について
 本件サービスを利用しなくても,利用者が,実際にテレビ視聴を行う場所(外出先や海外等)以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば,ベースステーションのNetAV機能を利用して,外出先や海外等においてテレビの視聴をすることが可能である。

 ベースステーションの取付け及び設定作業については,利用者自らが行うこともできるし,メーカーであるソニーの提供する設定サービス等を利用することもできる。アンテナ端子及びインターネット回線を準備し,ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションを稼働可能な状態にすること自体は,本件サービスを利用しなくても,技術的に格別の困難を伴うことなく行うことができる

(ウ)②の点について
 前記のとおり,本件サービスにおいて,利用者は,自らが購入し,被告の事業所に設置保管されているベースステーションを所有しているものといえ,被告は,所有者である利用者からベースステーションの寄託を受けて,これを被告の事業所内に設置保管しているにすぎないといえる
 そして,本件サービスにおいて,利用者は,被告に対し,ベースステーションを稼働可能な状態で被告事業所内に設置保管することを求め,被告は,ベースステーションが稼働可能な状態において,これを被告の事業所内に設置保管する必要があるものの,このような義務を伴うからといって,被告によるベースステーションの設置保管が寄託の性質を失うものではない
 寄託の性質を有すると解される,いわゆるハウジングサービスにおいても,ハウジングサービス業者は,利用者からサーバを預かり,利用者のパソコン等とインターネット回線との接続によりデータの送受信をすることができるようにすることがあるのであるから(弁論の全趣旨),被告がベースステーションの設置,保管に伴い,ベースステーションとアンテナ端子やインターネット回線との接続を提供しているからといって,本件サービスが,いわゆるハウジングサービスとは,その性質を異にするものであるとはいえない(いわゆるハウジングサービス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

 利用者は,本件サービスを利用しなくても,ベースステーションを東京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所に設置すれば,外出先や海外等において本件放送を視聴することができるのであり,このようにすること自体は,技術的に何ら困難を伴うものではない

(エ)本件サービスは,メーカーの提供する設定サービス等と比べ,ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,ブースター及び分配機を経由してアンテナ端子からベースステーションに放送波が流入するようにし,かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違するものの,それ以外は,利用者が上記設定サービス等を利用してロケーションフリーのNetAV機能を使用するのと異ならず,本件サービスを利用しなければ,本件放送を視聴することができないというものではない(メーカーの提供する設定サービス等が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

オ 上記アないしエで述べたベースステーションの機能,その所有者が各利用者であること,本件サービスを構成するその余の機器類は汎用品であり,特別なソフトウェアは一切使用されていないことなどの各事情を総合考慮するならば,本件サービスにおいては,各利用者が,自身の所有するベースステーションにおいて本件放送を受信し,これを自身の所有するベースステーション内でデジタルデータ化した上で,自身の専用モニター又はパソコンに向けて送信し,自身の専用モニター又はパソコンでデジタルデータを受信して,本件放送を視聴しているものというのが相当である

 要するに,本件サービスにおいて,本件放送をベースステーションにおいて受信し,ベースステーションから各利用者の専用モニター又はパソコンに向けて送信している主体は,各利用者であるというべきであって,被告であるとは認められない。

(3) 自動公衆送信装置該当性
ア 前記のとおり,自動公衆送信装置に該当するためには,それが(自動)公衆送信する機能,すなわち,送信者にとって当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者に対する送信をする機能を有する装置であることが必要である。

 前記のとおり,本件サービスにおいて,ベースステーションによる送信行為は各利用者によってされるものであり,ベースステーションから送信されたデジタルデータの受信行為も各利用者によってされるものである。

 したがって,ベースステーションは,各利用者から当該利用者自身に対し送信をする機能,すなわち,「1対1」の送信をする機能を有するにすぎず,不特定又は特定多数の者に対し送信をする機能を有するものではないから,本件サービスにおいて,各ベースステーションは「自動公衆送信装置」には該当しない

イ 原告らは,被告が本件サービスに供している多数のベースステーション,分配機,ケーブル,ハブ,ルーター等の各機器は,有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり,一つのアンテナ端子からの放送波を,このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信し得る状態にしているから,上記システムを全体としてみれば,一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものである旨主張する

しかしながら,上記(2)のとおり,各ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレスあてにされているものであり,個々のベースステーションからの送信はそれぞれ独立して行われるものであるから,本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても,不特定又は特定多数の者に対する送信を行っているということはできないというべきである。
したがって,上記システム全体を「自動公衆送信装置」に該当するということはできない。
・・・

ウ 以上のとおりであるから,本件において,ベースステーションないしこれを含む一連の機器全体が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものということはできない。

エ したがって,被告がインターネット回線に接続されたベースステーションとアンテナ端子を接続したり,アンテナ端子と接続されたベースステーションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が著作権法2条1項9号の5イ又はロに規定された送信可能化行為に該当しないことは明らかであり,本件サービスにおける被告の行為は,原告らの有する送信可能化権(著作権法99条の2)を侵害するものではない。』

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