知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

補正が発明特定事項を削除する補正事項を含むとされた事例

2012-06-24 15:58:19 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10319
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 本願発明において,
「通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの発信者により変更されるべきことを示す」ものであったところ,
 本件補正発明では,
「コマンド信号」は,「前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す」ものとなった
ことは,特許請求の範囲における文言から明らかであるから,本件補正により,「コマンド信号」における「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体は,「通信イベントの発信者」に限定されず,「サーバ」のように本願発明には記載されていないものも含まれるようになったものというほかない。そのため,本件補正により,通信イベントの受信者のサーバに対する指示であるコマンド信号において,メディア・フォーマットの選択の主体が発信者に限定されるコマンド信号のみならず,発信者に限定されないコマンド信号をも含むものとなるものである。

(2) したがって,本件補正は,本願発明における発明特定事項を削除する補正事項を含み,発明特定事項を限定するものではないから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない

(3) この点について原告らは,本件補正発明は,「通信イベントの発呼者」と明記されているとおり,通信イベントを発信するのは発呼者であるし,本件明細書【0044】の記載からしても,本件補正発明の「変更」の主体は「発呼者」というべきであるなどと主張する。

 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲には,「通信イベントの発呼者」と,「前記の情報信号を受信した後のトランシーバユーザの入力に応じて,前記サーバにコマンド信号を送信する手段であって,該コマンド信号は,前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す,手段」との関係を示す発明特定事項は存在しないことは,先に述べたとおりである。
 そして,「通信イベントを発信する」ことと,「通信イベントのメディア・フォーマットを変更する」こととは,機能や処理内容が異なるから,両者の主体が同一とは限らないことはむしろ当然である。

 そうすると,原告らが指摘するとおり,本件明細書に「発呼者に,…通信イベントをオーディオまたはビジュアル・フォーマットで選択させる」との記載があるとしても,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からすると,「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体が,本願発明と同様に,通信イベントを発信する者である「通信イベントの発呼者」に限定されているということはできない

(4) 以上からすると,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないとして,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。

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