NOHEA 'ILIO

僭越ながら、屋号犬神屋を名乗らさせていただいております。
19年春、ホノルルからラスベガスに転居してまいりました。

女王霍乱

2017年03月15日 | Weblog
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いつになく、無口な夫の傍に寄れば熱かった。
隔離した。
翌日。
顔色が、半紙のように白くなりかけている我が子。
隔離した。

そう、その時は、不意打ちのようにやって来た。
普段は、ただの善良な犬バカである筆者。
非常時においては、野戦病院の従軍看護師長の側面をも併せ持つ。
土鍋に白粥。ジンジャーベジスープ。鶏肉団子の中華シャンタン。
レモンは蜂蜜に漬け込んで、冷やした摩り下ろし林檎に混ぜましょう。
「食べよ。食べなんだら、死ぬぞ!この、塩生姜ちゃんこ鍋の汁も啜らぬか!」
クリミアの天使、フローレンスナイチンゲールも腰砕けになりそうな、完全無欠な看護態勢ではあった。
無私ともいえるこの奉仕。
罹患を防ぐために、日本の秘薬葛根湯を服用しながらの、不眠不休の完全看護。
その甲斐あって、患者二名に回復の兆しが見え始めた。

その時点で。
看護師長は自覚していた。
自分の両肩に、何かがずっしりと載っていることを。
なんのこれしき花屋敷。
発熱さえしなければ、なんとでもなる。
看護師長みるみるうちに。
タブレット持って、日本語ニュースを拾い読みすることもままならぬ。
そのうち、なんとしたこと、チワワ一匹、持ち上げられなくなるザマに。
霊の仕業のせいにして、水晶当ててこめかみを揉みながら、現実逃避に励んではみた。
「…妖魔~退散~…!」
除霊虚しく
発熱し始めた。
なにがなんとも、ならなくなった。
看護師長は、患者どもの手によって、隔離されることとなる。

隔離病棟では、せめてもの温情なのか、チワワとポメラニアンを守護天使にと付けられる。
アニマルテラピーに限り受け放題。
クウィーンヴィクトリアの末期を看取ったのは、ポメラニアンの「トゥリ」。
この、看護師長でもあり、かつまた暴虐の限りを尽くした女王の(そんな側面もあったとは…!!?)
病床にはべるのも、ポメラニアンの「トゥリ」なのかもしれない。
正解は「メイ」だが、意識が混濁しているというより、イロイロめんどっちぃので、この際どっちでも良い。
普段、飼い主が横たわっているときは、ベッドに上がってこないポメッ娘が、神妙そうに寄り添ってくる。
ついでに、どこをどうやって侵入してきたものか、猫たちも寄って来る。
そして猫たちは、容赦なく病体に乗って来る。
重い~…。
暑い~…。
でも寒い~…。
でも熱い~…。
暴虐の限りを尽くし足りない女王兼元看護師長。
自分の呼気に、厭な熱が籠っているのがわかる。
朦朧としながらも、犬バカには違いないので、やっぱり獣たちに寄り添われると、嬉しいことは嬉しく、不気味に薄笑いはしている。
「you still have fever…」
夫の掌は、肉付きよく分厚く、妻の額に触れ、熱を確かめるというより、頭を押しつぶされそうな気がする。
妻は、弱っていた。
「…あぃ~…デコ、ヘシャげるぅ~…あぃ~…デコ、ヘシャげるぅ~…」
こんなとき。
妻の悲痛な日本語を、夫が解することは無い。
汗を吸ったシーツを替えるのに、ベッドの端にゴロンゴロンと木場町の丸太のように転がされ、妻の脳ミソは、頭蓋の中をタルンタルンと揺れ動く。
しかも、新しいシーツは、御陽気な色柄のハワイアンビーチタオルであったのだ。
この、御陽気な色柄のハワイアンビーチタールによって、病態が醸し出す切迫感&哀切感が削がれてしまう仕儀となる。
そんなハワイアンビーチタオルの上に、再度木場町の丸太として転がされた妻。
これが瀕死の状態でなくて、何を瀕死の状態というのかすらわからない。
瀕死のわりには
「…治ったら、ブログネタにしてやるじぇ~…」
と、タルンタルンの脳ミソのひと隅で考えて、再度不気味に薄笑いする妻である。
眠っているのか。
熱に浮かされているだけなのか。
唇に、冷たく固く、なにやら甘い感触が。
「母さん、食べよ。食べなんだら、死ぬぞ!(英)」
子供が、剥いた林檎を、仰臥している母の口に詰め込もうとしている。
目を閉じたまま、母は林檎を咀嚼した。
しゃくしゃくシャクシャク。
シャクシャクしゃくしゃく。
できるなら、摩り下ろして欲しかった。
あら不思議。
林檎食べたら解熱した。
さすがだ林檎。
蛇にそそのかされて、アダムが喉につっかえて喉仏になり。
強欲な牝であるイヴは、一気に二個喰いして、それが乳房となったという禁断の果実だけはある。
動けるうちに、母はよろめきながら、おでん種仕込む台所。
「2~3時間くらい煮込んだら、お味がシュンだとこ二人で食べなさ~い…!」
偉いぜ私。
まるで、ジューゾーイタミの古い映画だ。
いまわの際の母さんが、夫子供に夕飯をつくり、家族が食べる様子を慈顔に微笑みを浮かべながら見つめ、そのままこと切れたあの名シーン。
私は、こと切れる代わりに、おでんの反動か、高熱に逆襲されていた。

ユータイがリーダツだか、リーダツがユータイだか。
河童が、アタイのシリコダマ持ってって、オリーブの替わりにマティーニに浮かべて、旨そうに呑んでるんじゃないか?
背骨するん!と抜かれた焼き魚って、こんな、もうどうしようもない気持ちかもしれないぞ?
発熱ワンダーランド、誰でも自在に夢を見る。
うつらうつら。うつらうつら。
寝汗にまみれて、浅くて熱くて、なかなか荒い私の呼吸。
リーダツがホンタイに戻ってきたころ、とにかく隔離病室は暗かった。
何時だ?
何日だ?
あれから幾歳過ぎたのだ?
ここは一体何処なのだ?
そして私は誰なのだ?
ここが日本の実家なのか、南の島のどこかなのかも、瞬時に把握はデキずにいた。
眠った気はしないけど、たぶん充分に眠ったのである。
回復という、神の裳裾だか、仏の法衣の袈裟の端だかに手が届く。

シリコダマ持ってかれたのは、八年前の日本の春以来のことでした。
転出転居の多い、人々でごった返している、日本の春の区役所を訪れただけで、あっけなく風邪もらい。
爛漫、馥郁とした桜の花の下、筆者はゴホゴホいっていた。
今回は、予防接種受けていたから、こんくらいですんだと無理矢理にでも思うことにしよう。
現在の私は、鼻ズーミーをかみすぎて、小鼻あたりがナチュラルピーリング状態です。
咳はだいぶ収まりましたが、咳のため腹筋使いすぎで、ハラが筋肉痛でございます。
もう。
白粥にはさすがに飽きました。
そんな今夜は湯豆腐です。

悪逆非道の限りを尽くした女王兼看護師長。
病知らずと、居丈高に豪語する輩より
今回の経験で、ヒトの痛み苦しみ、病のつらさ、そういうものを理解でき得る、優しい大人に一歩近づけたのなら御喝采。

でも。
アレよね奥さん。
やっぱり、人類の敵よねインフルエンザって。



※↑お写真は、女王の愛犬「トゥリ」とも見まごう、その本性はポメっ娘「メイ」たん♡
いつもの、海際のお散歩コース、ブーゲンビリアの垣根んとこ。
















コメント
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