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こちら、「ドンちゃん」です。
ドンちゃんのドンは
「首領」のドン。
ミハイルショーロホフ「静かなるドン河」のドン。
はたまた、石野真子さんの歌った「私のドン」のドン。
僕ドンちゃん♪見かけは小さな熊だけど～♪車はＡ級ライセンス♪
ドンちゃん、ドンと来い、何でもこい♪
覚えているヒトは覚えてる、「魔法使いチャッピー」エンディング曲のドン。
ころっころ生まれたての仔犬のドンちゃんと初めて逢ったのは
なんと筆者が、十六歳の冬でした。
かれこれもう、あれから千年くらい、しゃらっと時は過ぎました。
そこは、なんといってもドンちゃんですから。
御近所一帯の、犬社会のドンではありました。
番犬としてはこの上なく優秀で、媚を売るような芸はせず。
仔犬の頃の甘噛みの傷が、キッチンの壁際に今も残っているのです。
おシモの躾けは、ただの一度で完璧に入り、ヒト語を真似てはよく喋り。
「ドンちゃん、アウアウアは？」と振れば
いついかなる場合でも「アウアウア～～～？」と、即時応えるというような。（喋ってる？）
なんでか、海苔が好きでした。
上あごに張り付いた海苔が、思うように取れなくて、「オウオウ～？」と言いながら、変わった舞いを舞っていた。
名づけて「海苔舞い」
妹と「取っ組み合い」を装うと、慌てて仲裁に入るという、気配り万能犬でもあった彼。
忠誠心が、犬の毛皮まとって生きていた。
今だから言うけど、牛骨ボーンが大好きだからって、与えすぎちゃったせいで、奥歯萎えさせちゃってごめんな～。
筆者、ドンちゃんとの暮らしの中途で、海を渡って移民となりましたもので。
ドンちゃんのお写真を、机の上の写真立てに飾って、日々英和辞典など引いていたら、いつのまにかうっかり、今の相方のダディちゃんに一本釣りされてしまいましたのです。
鰹か私。
藁火で燻され、氷水で〆られ、皿鉢に盛られて薬味添え。
私がまるで、鰹のたたきのように、南の島でポン酢醤油びたしになっていた頃。
動物嫌いだった実家のお父さんが、毎日毎日お散歩に連れていってくれ
お母さんが、食餌の世話やブラッシングなどしてくれて。
ひたぶるに、番犬として実家の警護を、真摯に勤めたドンちゃんです。
そして。
入手したての永住権を片手に、久しぶりに日本一時帰国を果たした際。
律儀に、まるで飼い主の帰還を待つように、虹の橋を渡って行こうとした忠義犬。
孤高の犬のように、他人から給餌される病院食をまったく受け付けず、動物嫌いだったはずのお父さんと、手作りフードの皿を携えて日参した動物病院。
その動物病院から、とうとう静かになって帰ってきたやまとおのこを、「日本男児の鑑たれ」とばかりに、棺を香り高い春の花々で埋め尽くして送り出したこと。
今も、飼い主のもとへ、嬉しそうにまっすぐ駆け参じる姿が、ありありと脳裏に浮かびます。
ドンちゃん。
あの日から、実家の犬小屋は空のまま。
今でも、君がそのまま、そこに寝そべっているような気さえする。
今もまだ、どこかからか、実家の警護にあたっているんだろうと思います。
今でも海苔は、好きですか？
飼い主の男友達には、すべからく牙を剥いたから
相方ダディちゃんのことも、当然威嚇すると思うけど、まあ彼も犬好きではあるから、そこは多目に見てやってちょうだいね。
ついでに、飼い主の子供たちのことも、その忠誠心で、護っちゃってくれたまい。
ドンちゃん。
君こそ、雄犬の中の雄。
雌犬ならビッチなら、理想の雄だと思います。
撫子ならば、そんな雄には一途に惚れよ。惚れ甲斐あるから。いろんな山坂あったって。
ドンちゃん。
奇しくもダディちゃん、和犬タイプの戌年よ。しかもみごとに海苔好きで。
ドンちゃん。
いつまでもいつまでも、生涯きっと「私のドン」と呼ばせていただきますからね。
