少年時代の一時期を過ごした大寺に、中年の男性が滞在していた、学徒動員で出征して、なんとか帰ってきたのだが、すっかり、
「生きる気力を喪失していた」
大寺の住職・御前(ごぜん)さまとは、どんな関係だったのか。
8月の下旬、御前さまが、子供たちの書き損じた半紙を広げていた、
「のびやかで新鮮なライン これは この時期だけだな」
「道元や空海も およばない」
そして、かたわらの葡萄の木を指さし、
「来年は 実をつけるでしょう」
「マコト君にも あげようね」
その後、多くの宗教者にめぐりあったが、
「このヒトが イチバンではなかったか」
山奥の寺で一生を過ごした法華の行者、やっと。
「わかった」