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お嬢様の恋

2010-04-15 11:30:00 | 読書

         



 宮城県大和町宮床にある【原阿佐緒記念館
原阿佐緒(はらあさお)は明治21年生まれのアララギ派の女流歌人。
この記念館は彼女の生家だそうだが、鄙には珍しい白壁の美しい洋館である。

 記念館の中には、阿佐緒の作品や手紙類、生前使用した日用品などが多数展示されているが、何と言ってもここで一番興味深い資料は彼女の年譜である。
なぜならこの原阿佐緒という女性、たぐいまれな美貌と才能ゆえに「恋多き女」とも「魔性の女」とも言われ、波乱万丈のスキャンダラスな人生を生き抜いてきた。
その数奇な運命をたどるだけでもさまざまな思いが湧いてきて、年譜の前から足が離れられなくなる。



                


 
 素封家の娘に生まれ両親の寵愛を一身に受け、俗世間の汚れを何一つ知らずに愛らしく育った深窓の令嬢。
この好奇心旺盛な美少女は、上京し日本女子美術大学で日本画を学ぶ。
画家志望の青年と恋愛関係を育んでいたが、同校の妻子ある英語教師にレイプされ妊娠、自殺をはかるも助かりその後長男を出産、やがてアララギ派の歌人として名を博すようになる。

 [黒髪もこの両乳もうつし身の人にはもはや触れざるならん]

 もう絶対に私の身体は誰にも自由にはさせない、男はもうこりごりよ!
と固く誓ったのにも拘わらず、洋画家の青年の求愛を受けて結婚、次男を出産。
年譜でこの阿佐緒の次男・原保美氏の名前を見つけて驚いたが、NHKドラマ『事件記者』で渋い役を好演していた俳優だ。

 妻を束縛しようとする夫との失意の結婚生活の中、阿佐緒は、アインシュタインの相対性理論を日本に紹介したことで有名な物理学者・石原純と出会う。
阿佐緒に熱烈に恋をした石原純は、大学の職も妻子も捨てて彼女と一緒になるが、これが当時一大スキャンダルとして報道され世間を騒がす大事件となった。
しかしこの関係も長続きせず、やがて石原は阿佐緒を捨てて他の女性に走る。
このスキャンダルによって阿佐緒はアララギ派から破門される。

 その後阿佐緒は、モボ・モガバーのマダムをしたり、彼女の名声や醜聞を利用しようとする者たちに担ぎ出されて、女優や流行歌手に転身するも成功しなかった。
40代半ばからは、自分を取り巻くすべての喧噪から逃れ故郷で静かに余生を過ごしたという。

[捨てられて山にかくれて歌よみて泣きて子とのみ生くるわれはも]
[二人居て恋のなげきを見るよりも安く寂しくひとりあるべき]
[うしなひしもののことさら美しく見え来たる日は寂しかりけり]

 原阿佐緒の来歴には、おそらく誤解や歪曲された部分が相当あるだろうとは思うが
現代の異色のマルチタレントも顔負けの激しい人生を送ってきたことは間違いない。
男社会に翻弄された美しいあだ花のような印象を与えるが、実際のところはわからない。
それは彼女自身が望んで得た人生でもあるかもしれない。
もし林真理子さんあたりが彼女の伝記を小説化すれば、おそらくベストセラーとなり、再び現代に原阿佐緒がよみがえることになるだろう。

 最後に私が思わず笑ってしまった歌を一首ご紹介。

 [吾がために死なむと言いし男らのみなながらへぬおもしろきかな]

 (君のためなら死ねると熱く囁いた男たちよ!
なによ!みんな、いまだにのうのうと長生きしているじゃないの!
そんな男のたわごとを信じた私が馬鹿だった。いえ、私も信じたふりをしていただけ。
まことに恋というゲームは面白いものですね。  by nihao)