最近のお昼寝読書は角田光代の『ひそやかな花園』
就寝前読書も同じく角田光代の『八日目の蝉』
11月は角田光代月間でした。
角田光代さん、「恋愛してへこむので強くなりたい」という理由で、輪島功一さんのボクシングジムに通っているそうですが、体育会系を感じさせない緻密な作風の作家です。
それぞれの時間や場所で複数の異なる本を読むことを並行読書と言うそうです。
バッグの中には病院などの待ち時間用文庫本も入っているので、私は常時3冊の並行読みをしています。
時々筋書きや登場人物などが混線することがありますが、いつでもどんな時でも読書を楽しむことが出来ます。
並行読書は、忙しい現代人の読書生活のための裏技のひとつと言えるでしょう。
『ひそやかな花園』は、自分の出生が精子バンクであったという衝撃の事実を知った7人の男女の心の軌跡と苦悩を描いた作品です。読み始めたら止まらない魔力のある物語です。
『八日目の蝉』は、前半は誘拐犯の女と誘拐された少女の逃亡劇で後半はその後の二人の運命を描いた作品です。映画化された名作です。
どちらの作品も出生・親子・家族の意味を根源から問いかけている力作でした。
凡庸ではないというか、ちょっとゆがんだ家族の関係を描いた作品というのはテーマが重すぎて、読んでいてもやりきれなくなってくるのですが・・・
追い打ちをかけるかのように本日のワイドショーを賑わしていたのが
「60年目に発覚した赤ちゃん取り違え事件」
13分差で産声をあげたふたりの赤ちゃんの人生が入れ替わったという衝撃的な事件です。
本来と異なる人生を余儀なくされたとして産院側に賠償を求めた訴訟では3800万円の賠償命令は出たものの、実の両親はすでに他界していました。
渦中の男性は「生まれた日に時間を戻してほしい。両親に会いたかった」と複雑な胸のうちをあかしていました。
決して交わることのなかったふたつの家族ですが、それぞれが違和感を感じて暮らしていた様子とか、兄弟たちが真実に至る道筋は、まさに「血は水よりも濃い」を証明するもので、奇跡としか言いようのないものだと感心いたしました。
是枝裕和監督の赤ちゃん取り違え事件を扱った『そして父になる』がカンヌ映画祭審査員特別賞を受賞して話題になったのも最近のことでした。
さしずめこちらは『そして兄になる?』
生後6年で真実を知ることと60年経ってから知ることのどちらが果たして幸せなのでしょうか?
または6年で真実を知らされることと60年で知らされることのどちらが不幸せなのでしょうか?
家族の絆とは血縁を優先すべきものなのでしょうか?
それとも共に築き上げた時間を優先すべきものなのでしょうか?
この種の悲劇は自分の身に置き換えて考えるのが一番分りやすいのですが、本気になって考えれば考えるほど分らなくなります。
子どもの頃、親に叱られた後は必ず「いつか優しくてお金持ちの本当のお父さん、お母さんが私を迎えにきてくれるの」みたいな仮想遊びをやりましたが、これだってまごうことなき現実の家族の存在という強力な後ろ盾があってこその遊びでありました。
しかし小説よりも奇なる事実に身を置く当事者にしてみたらどんなに辛いことか計り知れません。
この事件の解明がすべての兄弟たちにとって最善のことであったかどうかは不明です。
もし本当に喜ばしいことであったら、もう一方の取り違えられた被害者も同席して感謝の言葉を口にする筈でしょうから。
それにしてもこの60歳の男性の落ち着いた会見を聞いている限りでは、自分の数奇な運命を受け入れて自己解決されていける方のような印象を受けました。
60年目に知った真実を、不幸せではなく幸せな出来事であると受け止めていただければと思います。
失われた時間を取り戻すことは出来ませんが、せめて残された時間が有意義なものとなりますようにと祈るばかりであります。