扉を開けると懐かしい友人の顔......
久しく会うことのなかったマダムTが、ニコニコ笑って立っていました。
マダムTは、仲間うちでは『料亭T』とあだ名がつくほどの料理名人です。
彼女の頭の中の8割は、常に食材と献立とレシピが渦巻いているかのようです。
彼女の手によるとどんな料理にも魔法がかかり、料亭のご馳走のような変身を遂げます。
彼女から食事のお誘いをいただくと、何日も前から嬉しくてたまりませんでした。
ちょうど今頃の季節には、新米を炊いて炭火で焼いた絶品のきりたんぽ鍋をご馳走してくれたものです。
当時の仲間たちは今では皆、ご亭主が退職して在宅だったり、嫁から孫の世話を押しつけられたりで忙しくなり、集まる機会がなくなってしまいました。
そのマダムT、去年ついに某社の社員寮の賄いの職を得ることになりました。
社員寮にはいつもお腹を空かせている10数名の独身青年や単身赴任者が住んでいます。
マダムTの才能と実力が、やっと認められる機会がやってきました。
彼女のご飯でお腹いっぱい元気いっぱいになれる男性たちも、なんと幸せ者でしょう!
本当は彼女には甲斐性のあるご主人がついています。
ハッキリ言って仲間うちでは一番リッチです。
なにもこの歳になって無理して働かなくてもよいのですが......
料理は生き甲斐。キッチンは彼女のステージ。大喜びでこの話を受けたそうです。
朝ご飯の支度は午前4時から。
終了後いったん自宅に戻り、また昼過ぎに晩ご飯を作りに出かけるそうですから結構ハードな仕事です。
買い物も献立をたてるのも自分でやらなければなりません。
社員たちの反応や残量などを調査しながら献立の研究に余念がありません。
適材適所とは、まさしくこのようなことを言うのでしょう。
「一番人気のメニューは何ですか?」と聞いたら「グラタンかしら」と言う答が返ってきました。
ああ、私も食べてみたい。
ところで我が家の娘も、一年間だけ親元を離れて下宿経験をしたことがあります。
母親としては、食事のことや生活面、健康面などいろいろ心労が絶えませんでした。
夏休みに戻ってきた時に、先ず娘の目の色が緑色になっていて腰を抜かしそうになりました。
黒目が緑色になるなんて...すぐにアメリカTVドラマで見た【ビジター】を思い出しました。
これはどこか体調が悪いに違いない。本人は気がついているのだろうか?ご飯は食べているのだろうか?栄養は足りているのだろうか?
恐る恐る娘に問いただしたところ
「あっ、これっ? カラーコンタクトにしたのよ!」
な、なんですって!
しかも1週間もしないうちに
「下宿のおばさんのご飯が恋しくなったわ!」
なにやら下宿先の奥様が大変料理がお上手だというのです。
カレーひとつとってみても、インド風、ジャワ風、タイ風などといくつかの種類があって、下宿人みんなが食事の時間を大変楽しみにしているとのこと。
体重が増えた下宿人もいたそうです。
おばさんの作る美味しいご飯は、初めての下宿暮らしの苦境を癒してくれる絶大な効果があるということでした。
娘の正直な言葉にはへこみましたが、ホッと安心感が横切ったのも事実です。
もし娘が下宿屋の食事に不満を感じ私のご飯を恋しがってばかりいたら、苦境を乗り越えることは出来なかったかもしれません。
子どもの自立を促すためには、母親は料理名人である必要などないのではないでしょうか?
一番でなくても全然問題などないのではないでしょうか?
久しく会うことのなかったマダムTが、ニコニコ笑って立っていました。
マダムTは、仲間うちでは『料亭T』とあだ名がつくほどの料理名人です。
彼女の頭の中の8割は、常に食材と献立とレシピが渦巻いているかのようです。
彼女の手によるとどんな料理にも魔法がかかり、料亭のご馳走のような変身を遂げます。
彼女から食事のお誘いをいただくと、何日も前から嬉しくてたまりませんでした。
ちょうど今頃の季節には、新米を炊いて炭火で焼いた絶品のきりたんぽ鍋をご馳走してくれたものです。
当時の仲間たちは今では皆、ご亭主が退職して在宅だったり、嫁から孫の世話を押しつけられたりで忙しくなり、集まる機会がなくなってしまいました。
そのマダムT、去年ついに某社の社員寮の賄いの職を得ることになりました。
社員寮にはいつもお腹を空かせている10数名の独身青年や単身赴任者が住んでいます。
マダムTの才能と実力が、やっと認められる機会がやってきました。
彼女のご飯でお腹いっぱい元気いっぱいになれる男性たちも、なんと幸せ者でしょう!
本当は彼女には甲斐性のあるご主人がついています。
ハッキリ言って仲間うちでは一番リッチです。
なにもこの歳になって無理して働かなくてもよいのですが......
料理は生き甲斐。キッチンは彼女のステージ。大喜びでこの話を受けたそうです。
朝ご飯の支度は午前4時から。
終了後いったん自宅に戻り、また昼過ぎに晩ご飯を作りに出かけるそうですから結構ハードな仕事です。
買い物も献立をたてるのも自分でやらなければなりません。
社員たちの反応や残量などを調査しながら献立の研究に余念がありません。
適材適所とは、まさしくこのようなことを言うのでしょう。
「一番人気のメニューは何ですか?」と聞いたら「グラタンかしら」と言う答が返ってきました。
ああ、私も食べてみたい。
ところで我が家の娘も、一年間だけ親元を離れて下宿経験をしたことがあります。
母親としては、食事のことや生活面、健康面などいろいろ心労が絶えませんでした。
夏休みに戻ってきた時に、先ず娘の目の色が緑色になっていて腰を抜かしそうになりました。
黒目が緑色になるなんて...すぐにアメリカTVドラマで見た【ビジター】を思い出しました。
これはどこか体調が悪いに違いない。本人は気がついているのだろうか?ご飯は食べているのだろうか?栄養は足りているのだろうか?
恐る恐る娘に問いただしたところ
「あっ、これっ? カラーコンタクトにしたのよ!」
な、なんですって!
しかも1週間もしないうちに
「下宿のおばさんのご飯が恋しくなったわ!」
なにやら下宿先の奥様が大変料理がお上手だというのです。
カレーひとつとってみても、インド風、ジャワ風、タイ風などといくつかの種類があって、下宿人みんなが食事の時間を大変楽しみにしているとのこと。
体重が増えた下宿人もいたそうです。
おばさんの作る美味しいご飯は、初めての下宿暮らしの苦境を癒してくれる絶大な効果があるということでした。
娘の正直な言葉にはへこみましたが、ホッと安心感が横切ったのも事実です。
もし娘が下宿屋の食事に不満を感じ私のご飯を恋しがってばかりいたら、苦境を乗り越えることは出来なかったかもしれません。
子どもの自立を促すためには、母親は料理名人である必要などないのではないでしょうか?
一番でなくても全然問題などないのではないでしょうか?