読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

J・R・ランズデールの『ダークライン』を読んで

2016年03月16日 | 読書

◇『ダークライン』(原題:A FINE DARK LINE)
ID:4wi312            著者: ジョー・R・ランズデール(Joe R. RANSDALE)

                     訳者: 匝瑳 玲子   2003.3 早川書房 刊

  

 1958年の夏。アメリカは南部の代表的な州テキサス。主人公の少年13歳のスタンリー・ミッチェル
・ジュニアは人口およそ10万人の田舎町デューモントに引っ越してきた。この小説は彼の一夏の異常
ともいえる体験の記録である。

 スタンリーJr.を取り巻く人々、登場人物はそう多くはない。スタンリー(父)、ギャル(母)、キャリー(姉
:16歳)、ロージィ(メイド:黒人)、バスター(映写技師:セミノール族インディアン)、リチャード(友人:14歳)、
ブッパ(ロージィの夫)、チャップマン(リチャードの父)、アーヴィング・スティルウインド(町の実力者)、ジェ
イムズ・スティルウインド(アーヴィングの息子)、そして愛犬ナブ。
 
 自動車の修理工だったスタンの父は、デューモントに引っ越してきて念願のドライブインシアターのオ
ーナーになる。もちろん住まいも隣接している。
 夏休みに入って間もなく、スタンは隣接した森の奥に焼け落ちた屋敷を発見する。そしてその一隅に
埋まった金属製の箱を見つけた。その箱の中には、女性が書いたと思われる手紙の束と日記の一部が
入っていた。 
 それはパンドラの函だった。蓋を開けた途端に、あらゆる醜いものと秘密が飛び出してきた。

 「MからJへ」という手紙は自殺したと噂されるマーガレットとMという男との間にかわされた手紙だった。
噂では、焼け落ちた屋敷では年若い娘のエレンが焼死したらしいし、雇い人の娘マーガレットは鉄道に轢
かれて亡くなっているという。家の持ち主のスティルウインドは新しい邸を丘の上につくったが、幽霊が出
ると言って今はホテル暮らしとか。スタンは友人のリチャードや、映写技師のバスターなどの助けを借りて
焼死事件の謎を探り始める。

 事件は最終章で意外な展開を見せる。スタンはとても13歳とは思えない活躍で真犯人を暴きだして新
学期を迎える。
 この間、長い夏休みに入って、秘密の金属缶の発見、映写技術の習得、姉キャリーを取り巻く若者との
騒動、キャリーによる性教育、友人チャーリー家のDV、幽霊屋敷の探検、ジェイムズ・アーヴィングに襲
われたキャリーの救出、バスターによるブッパの殺害事件、チャーリーを追ってきたチャプマンの死、そし
て町の実力者アーヴィング・スティルウインドを単独で脅し上げ家族を守ったたスタンの活躍…。
 たったひと夏のあいだに、この少年はなんという経験をしたのだろうか。

1958年はまだ古き良きアメリカが残っていた。良きといってよいのかどうかわからないが、変わりつつあ
る空気はありながらも、女性の役割は家庭を守ること、黒人の差別は当たり前が決して不自然ではなか
った時代の物語である。

(以上この項終わり)

 

にほんブログ村 美術ブログ 水彩画へ
にほんブログ村

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 春の果物を描く | トップ | 野生のからし菜を漬ける »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事