読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

雫井脩介の『犯人に告ぐ3虹の影』

2021年02月25日 | 読書

◇『犯人に告ぐ3 虹の影

       著者: 雫井 脩介      2019.8 双葉社 刊

  

    犯人に告ぐ連作の第3部。第1部は<バッドマン事件>、第2部闇の蜃気楼は<大日本
誘拐団事件>、そして今回の第3部虹の影は<ネッテレ事件?>。
 今回は前作で取り逃がした誘拐団の主犯「リップマン(淡野)」の生い立ち、休眠中
に転がり込んだ元彼女春原由香里との日々、新らたに手下にした菅山渉との遣り取り、
心理的葛藤などにページの多くが割かれており、追う巻島警視の影が薄い。

 リップマン誘い出しにバッドマン事件同様テレビを使った劇場型対決が再び採用される
が、情報化の高度化を映しSNSなどネットメディアやアバターを使い『特別報道番組リッ
プマンに告ぐ』を設けて、直接対話を画面で流すという手法が新鮮である。警察の手持ち
情報をある程度一般に流し、犯人あぶり出しに協力してもらうという狙いがある。驚くの
はその土俵「ネッテレ」を提供するIT業界の会社代表が「ワイズマン」であるという大
胆さ。

  巻島警視と「リップマン」のアバターとの対話では誘拐事件で持ち逃げされた金塊3個
が話題に上ったり、「新しい計画で捕われた兄弟の無念を晴らし、巻島の鼻を明かしてや
る」などと際どい会話を交わしたりする。一方今回はこうした派手な対決場面の裏側では
淡野が捜査一課で”手持ち”と呼ぶ多額の不正裏金を掠め取るという大胆な取引を進めるな
ど、盛り上がりが半端ない。
 巻島はアバターで画面に誘い出した淡野に「多少の勇気とプライドがあったらこのゲー
ムに乗れ」と煽ったり、最後に淡野の写真を暴露した際には「決して安らかに眠らせたり
しないリップマン、今夜は震えて眠れ!」などとファイナルメッセージを叩きつけたりす
るカッコいいシーンもある。
 
 更には神奈川県では横浜市長選さ中。ワイズマンはIR(統合型リゾート)誘致を進め
る現市長の資金的応援だけでなく、対抗馬の立候補者に女性を差し向け、スキャンダル騒
ぎを起こし立候補を降りさせるなどフィクサー的動きをする。こうした政治向きの資金稼
ぎに淡野の最後の一働きを働きかけたのである。

 捜査一課長の半田は警察内部にリップマンの内通者がいることを捜査本部の中で持ち出
して捜査体制を混乱させようとする。巻島に含むところがあるからだし、淡野から裏金を
差し出すか、世間に公表されるかどちらか選べと恐喝されているからである。

   第1回目の恐喝金5千万円の受け渡しは不成功に終わった。心臓が弱っていた淡野の母が
危篤状態になって、臨終の場に立ち会うという不測の事態がおきたからである。加えて金
の受取役となった渉はかつて借金を踏み倒した仲間に鉢合わせするというハプニングが起
き金の受け渡しができなかった。。

 第2回目の金の受け渡し役は、巻島が信頼する課長代理の秋本。裏金管理の一端を担っ
ているのだが巻島から刑事の本分を諭され、金の受け渡し時にスマホで淡野の顔を撮ると
いう金星を挙げ、意地を示した。淡野の顔写真はネッテレ画面に公表された。

 顔を知られてしまった淡野は鎌倉から横浜のアジトへ。しかし変装もままならない。ワ
イズマンはもはやこれまでと覚悟したか殺し屋を差し向け淡野を消す。

 裏金造りという警察組織のスキャンダル公表、しかもその金を掠め取られるという無様
さに甘んじながらも犯人逮捕という警察の本分を追い求めるか、それとも金を渡し犯人グ
ループを逃してうやむやにするか。二択の厳しい状況を何とか凌いだ巻島シリーズの次は
あるのか。これで終わりか。
 連作なので本作も前作の『犯人に告ぐ2闇の蜃気楼』を先に読んだ方が分かり易いし、
段然面白く読める。

                            (以上この項終わり)

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