読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ(上)』

2024年06月03日 | 読書

◇ 『巨匠とマルガリータ(上)

   著者:ブルガーコフ

   訳者:水野 忠夫   2015.6 岩波書店 刊

   
 近代ロシア文学の巨匠の一人ブルガーコフの代表作。死後26年経って完訳が出版
された。彼の作品はスターリン時代にあって何度も出版が拒否された。大作「巨匠
とマルガリータ」もゴルバチョフのペレストロイカによってようやく日の目を見た
のである。

 出版社は幻想小説とうたっているが、確かに時空の飛躍と奇想天外なシチュエー
ションの展開で気も動転し息もつかせないことしばしばであるが、幻想的というよ
りは創作世界の中に巧みにリアルな世界(当時のロシアにおける政治
的・思想的現実社会)を組み込ませる韜晦の手立てと見ても良いかもしれない。 
 時空の飛躍とパトリョーシカのようなキリスト神話の登場、劇画のような黒魔術
団の暗躍などが軽快かつコミカルな文体で流されて退屈することがない。

 前段階(上巻)では巨匠が描き続けた作品「巨匠とマルガリータ」の中の小説で
エルサレムのゴルゴダの丘でヨシュア(キリスト)を処刑に追いやるポンティウス
・ピラトゥスの苦悩を描いたくだりが第一段、巨匠の愛人となったマルガリータと
の出会いと別離が第二段、黒魔術師ヴォランドと手下の小悪魔らによるモスクワの
某舞台における魔術で紙幣が天上から撒かれ、ドレスや靴・香水などがばらまかれ
街中大混乱に陥るという乱痴気騒ぎが第三段。後ろ脚で立ってロシア語を操る太っ
た黒猫(黒魔術師の手下)の登場に驚く。


 イワンという詩人と、総合文芸誌編集長のベルリオーズがどこからともなく現れ
た黒魔術の専門家と称する外国人(実は悪魔ヴォランド)とキリスト神話に関して
対話することから始まる。”見知らぬ人と口をきくとろくなことにならない”という
格言があるというのに。
 案の定ベルリオーズは後刻電車で轢死し、イワンは悪魔を追跡するうちに精神病
院にいれられる。
 そして時は2千年前、古代ローマ時代に飛ぶ。エルサレムのゴルゴダの丘でヨシュ
ア(キリスト)を処刑したピラトゥスは処刑を悔いて苦悩する(作品中の巨匠の小
説)。
 この小説を描いた巨匠は「キリストを賛美する作家」として編集者、批評家から
激しい攻撃を受ける。彼は著述に悩み精神病院に入れられる。
 裕福な科学者の妻マルガリータは知的で有能な巨匠に惹かれ、キリスト処刑の作
品を是非完成するよう鼓舞するが、ちょっとした隙に巨匠は姿を隠してしまう。

 (この巨匠とマルガリータの関係はまるで作者ブルガーノフとその妻エレーナの立
  場と二重写しに見えてしまう) 

 
                        (以上この項終わり)

 


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