読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

キミ・カニンガム・グラント『この密やかな森の奥で』

2024年04月08日 | 読書

◇『この密やかな森の奥で』(原題:These Silent Woods)

   著者:キミ・カニンガム・グラント(Kimi Cunningham Grant)

   訳者: 山崎 美紀 2023.11  二見書房 刊(二見文庫)  


 日系4世の作者デビュ―2作目のサスペンス。とはいうもののサスペンスの盛り上がりは
物語中段以降である。最初は大自然に抱かれた自活生活と父と子の深い愛情と強固な結びつ
きが語られるが、なぜ外界からの侵入者に対し強い警戒を怠らないか、15・6年前の事件
が問わず語りに述べられる。その語り口はほぼ主人公クーパーの独白にちかい(最終段のエ
ピローグだけ娘のフィンチが述懐する)。人物造形が優れていることから父と娘の互いの思
いやりと固い絆がひしひしと伝わってくる。

 主人公元軍人のクーパーは結婚を間近にして交通事故で亡くなったシンディという恋人が
残した忘れ形見、フィンチという8歳の娘とアパラチア山脈の人里離れた奥深い森の小屋で
暮らしている。ガソリンスタンドがある町の外れ迄20数キロある。
 森の樹々を渡る風、舞い散る冬の雪、貴重な食料となる小動物や鳥との係わりなどが丁寧
に描写される。
 シンディの父親は元判事。クーパーは交際中から嫌われていた。戦争でのトラウマが元で
発砲事件を起こしたクーパーは育児能力なしとされ祖父母に娘は連れ去られた。これに反発
したクーパーは祖父母に暴力を振るい、ほとんど誘拐にちかい形でフィンチを連れて森の中
に逃走、元戦友ジャックの小屋に潜んで暮らしている。お尋ね者なので、異常に人影を嫌う。

 フィンチは書物やクーパーとの語らいの中で知育は進んだが、次第に他の人との接触を渇
望するようになりクーパ-は葛藤を強いられるようになった。わずかに年1回だけ生活物資を
運んでくれるジャックと何キロも離れているものの偶に訪れる隣家のスコットランドが数少
ない友人であった。
 そこにジャックの妹マリーが現れた。ジャックが病気で亡くなったため代わりに荷物を届
けに来たという。フィンチは大喜びである。

 ある日森の谷の一画で若い男女がテントを張っているのをフィンチが発見する。一人でそこ
まで出かけたことでクーパーは激怒する。彼らの口から二人の潜んでいる小屋が知られたら判
事夫妻の捜索隊が来襲する。テントの女性と友達になりたかったフィンチは再び単独でテント
を目指す。
 フィンチを探してテントに辿り着いたクーパーはそこで若い女性の死体を発見する。スコッ
トランドは新聞に行方不明で捜索隊が出てるという。間違いなくクーパーたちも見つかる。
むしろ自首しようとクーパーは決意する。
フィンチは必死で止めようとする、クーパーは別れがつらく躊躇逡巡する。
 ところが隣人のスコットランドは「自分が彼らを殺したことにして出頭する。この事件が解
決すればクーパーたちの捜索も打ち切りになる。これは恩寵として受け取れ」と告げた。

 結局スコットランドのいう通りになった。クーパーはフィンチが16歳になった時祖父母に謝
罪し3人は和解した。フィンチは今は大学生。19歳である。
 結果的にめでたしめでたしであるが、シングルマザー、シングルファーザーの多いアメリカが
抱える問題の一端を題材にした作品の一つである。


                              (以上この項終わり)

  


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