読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

マイクル・コナリーの『贖罪の街(上・下)』

2019年05月25日 | 読書

◇『贖罪の街(上・下)』(原題:THE CROSSING)

           著者:マイクル・コナリー(MICHAEL CONNELLY)
           訳者:古沢 嘉通  2018.12 講談社 刊

   
  
 ハリー・ボッシュシリーズ第18作目。ロス市警強盗殺人課刑事であったがある
事件をきっかけに非を問われ引退した(しかし地位確認の係争中である)。
 リンカーン弁護士・異母兄のミッキー・ハラーからある強姦殺人事件の調査員
として協力してくれとしつこく頼まれる。事件の内容に興味を持ったものの躊躇
逡巡する。刑事弁護士に協力することは警官仲間への裏切り行為とみなされ村八
分の目に合うのだ。原題の「The Crossing」は審理法廷での検察側と弁護側の
テーブルを横断すること、つまりの「河岸」を変えることを意
味している。

 ボッシュはハラーに渡された調書を読み進むうちに不可解な点が浮かびあがり、
予備審問の場に立たされている
容疑者フォスターは無実であるとの確信を深めて
いく。

 アメリカの警察小説、ハードボイルド小説など読んでいると悪徳警官が登場す
ることが多い。もちろん日本でも悪徳警官がいないわけではないが、アメリカな
どでは格段に多いのではないかと思う。しかもその悪徳度が半端でない。銃と麻
薬、性犯罪それにギャングが幅を利かせている分警官が悪と結びつき易いのであ
る。

 あえてネタバレを犯すが今回ハリー・ボッシュが立ち向かうのは、ゆすり・証
拠隠滅・窃盗・故売・殺人など、将に悪の限りを尽くす悪徳警官との戦いである。
 犯人像は冒頭のプロローグで伏線が敷かれていることでもあり、すぐに見当が
つくのであるが、警察の捜査陣が見逃した些細な点を手掛かりに、しつこく手繰
っていくところにハリー・ボッシュの面目躍如たるものがある。
 
 これは日本でも同様と思うが、強盗殺人や強姦殺人事件などの場合、例えばD
NA鑑定である人物のDNAと同定できたとすると、その後は電話記録や目撃証人
などの地道な捜査はその時点で止まってしまう。無理もないが、例えばそのDN
A試料が捏造されたものであったりしたら、真実の発見どころではない。危険な
落とし穴である。
 それから、確かに警察は検察官と同じサイドで、刑事弁護士は敵対関係にある
のは間違いないが、証拠や捜査調書など開示資料を弁護側に提示する際にページ
をめちゃくちゃにしたり、資料を適当に外したり、証拠を失くしてしまったり随
分あくどい嫌がらせをすることを知った。そんな無茶苦茶な世界で被告人の無罪
を勝ち取ることは至難の業で、注目される重要事件で被告無罪を勝ち取れば一躍
ヒーローになること間違いなしなの
である。

 刑事仲間に白い目で見られながらも、昔の相棒などの支援を受け見事事件の真
相を突き止めたボッシュは、次
の殺人のターゲットになる恐れのある人物に会い
に行ったところ、危機を察知した悪徳警官と遭遇。銃撃戦の末に、悪徳警官の一
人は撃ち倒したが、一人は取り逃がしてしまう。そして自宅でほっとしたところ
うかつにも逃走していた警官に襲われ銃口を向けられる。しかしあわやの際にか
つての仲間、内務監察官のメンデンホールに助けられる。

 やがて場面は法廷審理。これまでの捜査に拘泥する検察側と新たな証拠を手に
立ち向かう弁護側。アメリカの法廷での審理場面はやはり見ごたえがある。

 結局ボッシュの証言とハラー弁護士の華麗な法廷戦術で公訴棄却をもぎ取り
ボッシュらは勝利した。
 ハリー・ボッシュシリーズの次作邦訳は、私立探偵兼嘱託刑事となったボッ
シュが、富豪の遺産を巡る調査と並行して連続強姦事件にかかわるという「The
Wrong Side of Goodbye」(2016)。
                         (以上この項終わり)

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