読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジェイムズ・エルロイ『アンダーワールドUSA(上/下)』を読む

2011年10月06日 | 読書


アメリカの暗部を余すところなく暴く『アンダーワールドUSA上/下

 

                   著者: ジェームズ・エルロイ
                   訳者:  田村 義進 2011年7 文芸春秋社
                                          
   
        
 
  エルロイの著作は人間の悪事の総合展示場のごとく、複数の事件が複雑かつ緻密に交錯しながら
 展開し、登場人物はどんどん堕ちていく。
  
  エルロイは「アメリカ文学界の狂犬」と自称する。
  1948年生まれで現在63
歳の働き盛り。10歳で看護婦だった母が何者かに殺され(犯人は今も不
 明)、父も17歳で亡くしている。高校中退後犯罪者同様の生活を送っていたが、20代後半に文学に目
 覚め、1981年の『レクイエム』を皮切りに毎年著作を発表している。
  1987年の『ブラック・ダリア』を皮切りとする「暗黒のL・Aシリーズ四部作」でアメリカの暗部を抉る犯
 罪小説の名手としての評価を確立する。
  『ブラック・ダリア』(1987)、『ビック・ノーウェア』(1988)、『L・Aコンフィデンシャル』(1990)、『ホワイ
 ト・ジャズ』(1992)。『ホワイトジャズ』は暗黒小説の金字塔と称される。

  さて、続く「アンダーワールドUSA三部作」は『アメリカン・タブロイド』(1995)、『アメリカン・デストリ
 ップ』(2001)、『アンダーワールドUSA』(2009.9)
 エルロイは言う。―(これは)アメリカの現代史を政治と犯罪界の結託が生み出す「悪い白人ども」の物
 語に書き換える試みである。―

  時代は1958年から1972年の15年。ジョン・F・ケネディの暗殺、マルティン・ルーサー・キング牧師、
 ロバートケネディの暗殺とアメリカにとって暗い、狂気の時代だった。

 『アメリカン・タブロイド』ではアメリカ最大の殺し、J・F・ケネディの暗殺。犯人は。マフィアと深くつながっ
 たケネディ一族の恥部、女好きのケネディの私生活が描かれる。
  『アメリカン・デス・トリップ』ではケネディの暗殺後、公民権運動の象徴キング牧師と次の大統領と目さ
 れたロバート・ケネディが凶弾に倒れる。その裏にはFBIの策謀が。
 そして『アンダーワールドUSA』。

   電文体と称される細切れな文体。背景説明もなしに最小限まで殺ぎとられた短文が続く。登場人物は
 30人以上に及ぶ。そのため何度も本の最初にある登場人物説明に帰ることになる。

  主な登場人物は13人、とくに重要なのは5~6人。元ラスベガス市警刑事ウェイン・テッドロー・ジュ
 ニア(今は亡きウェイン・シニアの尾を引く)、FBI長官フーヴァーの側近特別捜査官ドワイト・ホリー、私
 立探偵ドン・クラッチ。ロス市警黒人刑事マーシュ・ボーエン、左翼運動にパイプを持つ謎の女ジョーン・
 クライン、ロス市警の刑事スコッティ・ベネット。
  物語に登場する大物は大統領候補リチャード・ニクソンと対立候補ヒューバート・ハンフリー上院議員。
 FBI長官フーヴァー。ドミニカ共和国大統領ホアキン・パラゲール、マフィアの幹部、カルロス・マルチェ
 ロ、サム・ジアンカーナなど。

  ニクソンの大統領選挙資金の不正献金、ハンフリー優位となった選挙運動の妨害工作、アカ嫌いと
 病的な人種差別がいまや妄執化したFBI長官フーヴァーが指示する黒人過激グループへの潜入工作、
 反共キューバ人グル―プの支援と麻薬の売り込み、ドミニカへのカジノ開設のための資金作り」(ラスベ
 ガスカジノの裏金とヘロインの密売)、黒人・白人・キューバ・ハイチ人等多くの殺戮があり、アカ狩りでは
 頭皮を剥ぐ。亡霊の悪夢を見ないようにヴードゥーの薬酒(ゾンビ・エキス)を飲む。もちろんKKK(クー
 クラックスクラン)も登場する。もうむちゃくちゃである。

  内通、裏切り、復讐、でっちあげ、強奪、横領、改竄、証拠の捏造、買収、売春、拷問、殺戮、ホモ、レ
 ズ、幼児性愛、アカ狩り、覘き、盗聴、盗撮・・・なんでもあり。悪行のオンパレード。

  白人のワルどもには、彼らなりの狂信的な大きな目的がある。その手足となって動く面々は目的のた
 めには手段を選ばない。権力者がすべての悪行を許容する。FBI・警察官など法執行機関であっても無
 法の限りを尽くす。
  しかし暴虐の限りをつくしながら、時折自らの悪行の途中で自分に罰を与えるような行動をとる者がい
 る。そんな中の一人ウェインはハイチの狂信的グループの手で殺される。

   やがてもう一人の主役ドワイトもニューオリンズで倒れ病院へ。策略と殺戮から
神経を病んだ結果である。
 夢の中に頻繁に殺した人たちが現れる。
   このドワイト、半年して退院後情報管理担当の閑職に就く。神経衰弱から立ち直ったと思ったら、なんと
 極左の愛人ジョーンなどと謀って、フーヴァー長官(内部では老いぼれオカマと陰口されている)殺害を
 計画し始める。罪は元潜入捜査官マーシュ・ボーエンに被せる。そのために入念に過去の記録を書き変
 え、証拠を捏造する。個人的日記も書き変える。、なんともはや過激だ。
   しかし、複雑な筋書きを演出していくのはむずかしい。やがてマーシュはハイチでヴードゥーの男たち
 に殺害される。ショーンも計画の遅れに嫌気して去る。ドワイトのフーヴァー長官の暗殺計画は頓挫する。
  
  銀行強盗の金700万ドルを山分けしようとドワイトに持ちかけたスコッティは、話がこじれドワイトを殺し
 てしまう。さまざまな禍ごとの過去をもつドワイトをFBIは簡単に切って捨て葬り去る。
  そしてスコッティはドワイトの愛人カレンに殺される。因果は巡る風車。

 最終章は第6部。
    登場人物では一番若いドン・クラッチはフーヴァー家の情報保管庫に忍び込み、ペーパー爆弾44個
 で全ての秘密ファイル(裏情報)を炭化させ無力化する。これを見たフーヴァーは心臓麻痺で死ぬ。享年
 77。
  クラッチは今も生きていて、LAで探偵業をしている。
  
 ”悪党どもに幸いあれ”・・・
J・エルロイ

  ある読者は(読んでいて)「早く嫌悪感から逃れたい一心で読み進んだ」と述懐しているほど、一歩身を
 引いて読まないと(つまりあまりのめり込まないで)参ってしまう。

  エルロイの次の作品は?   

                                                    (以上この項終わり)
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 沖縄の泡盛 | トップ | コスモス(秋桜花)を描く »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事