読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

高齢者・空き部屋の活用

2013年11月04日 | その他

シニアが拓く―資産の活用(3)―
  「若い人と住めば、難しいことも出てくるだろう。それも楽しみ」
  ・・・(Aさん<85歳>は)2009年に妻を亡くしてから東京都内の自宅で独り暮らし。空き部屋
 だった10畳の和室を片付け、同居人となる男子大学院生を迎える準備を整えた。・・・
  同居人探しを仲介したのはNPO法人、リブ&リブ(東京・練馬)。フランスやスペインで広く定着
 している「ひとつ部屋、ふたつ世代」制度をモデルに活動している。学生に安く住まいを提供し、
 高齢者の孤独の解消につなげようという取り組みだという。(日本経済新聞11月4日朝刊から)

  それで思い出した自分の若いころのこと。
  昭和36年の夏に21歳で転職して長野市から東京に移り住んだころのこと。友人の助けを借りて
 下宿先を探した。高田馬場の不動産屋さんで紹介されたいくつかの物件のうち、狭いが家賃が安
 い西武新宿線の沼袋駅から歩いて15分ほどの戸建の一室に行きあたり決めた。勤務先のある
 千駄ヶ谷に近いうえに、家賃が2,500円と安かった。なにしろ当時月給が9,500円だったから部
 屋の安さが第一条件だった。
  その家は70代の老夫婦の住いだった。空き部屋の3室を学生や勤め人に貸していた。息子と
 娘はすでに結婚して独立しており、老夫婦だけでは不用心だし、生活の足しになればと貸室にし
 ているということだった。不動産屋の紹介で面接した結果即入居となった。後で聞けば真面目そ
 うだし、勤め先が安心できたからだという。
  部屋は3畳一間。ほかの3畳間は商社・丸紅の勤め人、4・5畳の離れは早稲田の法学部の
 2年生。焼津の生まれで、警察官の息子だった。商社の人はいつも遅く、滅多に顔を合わすこと
 はなかったが、焼津の学生とはすぐに打ち解けて、時間がある時はよくいろんなことで話し込んだ。
  老夫婦のおじいさんは東京外語大の出で、三井物産の上海支店が最後の職場だったという。
 当時の神奈川県知事の内山は僕の同級生だとよく言っていた。おばあさんは岩手の出で、なか
 なか訛りが抜けないと言っていた。
  当時からこのような下宿屋は多かったのではないだろうか。1間の間口の濡れ縁があって、そ
 こに洗濯物を干す。机を置くとあとは布団を敷くスペースしかない。それでも日中は居ないし、休
 みの日は新宿に出るか、図書館に行くか、山歩きに出掛けるか…。条件にはなかったが、時間
 が合えば風呂も入れてもらえたし、時折り食事もごちそうになった。お菓子があるから…などと
 炬燵のに入り込んで、夫婦の昔話や、私の職場の話や世間の話題などを交わしたりした。そん
 なこんなで家賃の安さと居心地の良さも手伝って、次に結婚まで住むことになった都立家政駅
 近くのアパートに引っ越すまで、7年もこの3畳間に居座った。おばあさんの郷里の年頃の女性
 を紹介された(写真だけ)こともある。もっともこれは実らなかった。

  74・5歳のおじいさんは「あー、もういいや」とよく言っていた。もう十分に生きた。思い残すこと
 はない。いつお迎えが来てもいい。そんな意味だったのだろう。 同じ年頃になった今の自分は
 まだそのような気分にはなれないが、そのころは「ああ、この歳になると自然とそんな心境にな
 るものか。人間はよく出来ているなあ」などと妙に納得していたものだった。
  そのおじいさんは77歳頃に亡くなった。或る晩、夜中にお婆さんに起こされた。「おじいさんが
 息をしていないよ」。「喉が渇いた、水が飲みたい」というので「こんな夜中になんですか」と言った
 ら「水くらい飲ませろよ」と言ったまま、気が付いたら息をしていないんだよとおろおろした姿。その
 あと宇都宮に住む娘夫婦や横浜の息子夫婦に電話したりと、同居人らしいことはした記憶はある
 が、事実上家族同様の付き合いだったが、死に水をとるような深い関係にまでなるとは思わなか
 った。

  今日の日経朝刊の記事を読みながら、今となっては遠い昔の下宿時代を思い出した。昔の方
 が濃密な人間関係があったなあ。このNPO法人のように、田舎から出て来た若者にそんな空間
 設定を考えてやれば、東京砂漠と揶揄されるような希薄な人間関係の中で、うるおいを造り出す
 縁(よすが)になるのかもしれないと思った。

 「家が人生最大の買い物であることは昔も今も変わりない。少子高齢化で社会や家族のありよ
 うが変わるなか、資産としての家は「残す」ものから「使う」ものへとなりつつある。」
 (日本経済新聞11/4朝刊1ページから)

                                               (以上この項終わり)

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