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読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

薬丸 岳の『告解』

2021年02月09日 | 読書

◇ 『告解

                    著者:薬丸 岳  2020.4 講談社 刊

 

 久々の薬丸岳の作品を読む。江戸川乱歩賞受賞作品『天使のナイフ』は少年
法の持つ問題点を指摘する一面があったが、本作は犯罪加害者の良心と犯罪被
害者家族の葛藤を描く。
 犯罪被害者は加害者が正しく罪に問われて処罰されていないと考えるとき私
的に懲罰を加えなければと思う人がいる。社会的には許されないが因果応報信
仰は根強い。本作品はこうした因果応報話かと思わせるが、犯罪者の心の裡に
深く入り込んだプロット構築で、天使のナイフとは一味違う穏やかなものとな
っている。

 81歳の主婦が深夜交差点で渡っていた歩道で、飲酒運転で信号無視した乗用
車に轢かれ死亡した。運転していたのは20歳の青年。人を轢いたかもしれない
と思ったが狼狽・恐怖に駆られそのまま逃走した。

 容疑者籬翔太は飲酒運転とスピード違反は認めたものの信号は青だったと言
い張って、証拠もないために飲酒運転と危険運転障害致死罪で懲役4年10月の
判決が下った。
 刑期を終えて出所した時に弁護士から被害者宅を訪ね位牌に焼香するなどお
詫びすべきだと言われたが、気が乗らずそのままになっている。付き合ってい
たバイト仲間の綾香も去った。姉の敦子は婚約が流れ母と母の実家に移った。
父は酒におぼれ仕事もなくなってしまった。

  翔太が飲酒運転を覚悟してまで急いだのは綾香から「大事な話があるから今
すぐ来て、来なければ別れる」と言われたからだが、裁判では急に運転がした
くなったからだと綾香のことは持ち出さなかった。
 綾香は事件後翔太のひき逃げは自分のせいでもあると罪悪感を拭いきれない。

 ひき逃げされた女性の夫法輪二三久は認知症がだいぶ進んでいるが、加害者
に対してしなければならないことがあると言い張って、出所後の翔太の住むア
パートに一室を借りて様子を探っている。
 
 実は綾香は翔太の子を宿していてそのことを相談したかったのに事件が起き
てしまった。生まれた子拓海はすでに4歳である。何とか今後について翔太の
考えを知りたい。とりあえず友達関係でと、時折食事を作ってあげたりする。

 認知症の二三久は翔太や綾香と知り合いになり、作った食事を分けて貰った
りする間柄になる。翔太は介護の資格を取り、服役の過去を明かした上で正職
員としてグループホームの仕事に就く。
 しかし二三久が俊太に刃を向ける騒ぎを起こしたため辞めざるを得なくなっ
て、アパートにも戻れずネットカフェ住まいに。

 嚥下障害で余命短い法輪は翔太を呼んで今際の告解をする。「わしは先の戦
争で上官の命令とはいえ何人もの民間人を殺した。今でも亡霊が現れる。それ
は後悔の証だと思う。しかし自分はその罪を告解をしていないから亡霊が出る
のだ。告解は同じように罪を犯し、後悔している人が相手でなければ真の告解
にならないと思う。君も君子の亡霊を見るだろう。それは後悔しているからだ
と思うのでここで私の罪業を告げ、私の償いをしたい。」
 翔太は法輪の言葉に感動し、法廷では偽りを述べていたこと、赤信号で妻の
君子をひき逃げしたことを告白し、懺悔する。
 翔太に向けた刃は錆びついた軍事用銃剣の刃だったのだ。

 翔太は改めて綾香・拓海と家族になった。

作者の言いたいことは自らの良心に忠実であれということだろうか。

(告解とはキリスト教カトリック教会の代表的赦しの秘跡の中心的行為。洗礼
ののちに犯した罪を司祭を通じて神に言い表す行為。「悔悛の秘跡」と呼ぶ
=広辞苑)

                         (以上この項終わり)