読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

小倉 日向の『極刑』

2021年02月03日 | 読書

◇『極刑

       著者: 小倉 日向 20210.8 双葉社 刊
 



 この作品の基本構図は罪を償うことがない犯罪者に対する被害者遺族等の
反撃である。
 極刑とは加害者に対し与える最高刑、死刑を意味すると考えてよいだろう。
 世の中には犯罪が行われても証拠の不足などで十分な刑罰が与えられてい
ない場合が多々ある。また罪の意識を抱かずのうのうと過ごし、被害者及び
その家族などは因果応報を求めながら叶えられず辛い日々を送っている人が
いる。こうした不条理な犯罪被害に遭った被害者遺族などは犯罪被害者の会
を作って、互いに体験談、最近の心境や精神的つらさなどを述べあったりし
て立ち直りの手立てとしている。

 こうした被害者遺族等が明かした加害者情報から、許しがたい犯罪者を
探し出し被害者と同等以上の恐怖と痛みを加え復讐する一人の男。それが
本作品の主人公の半田龍樹である。
 半田龍樹はかつて当時10歳だった娘の綾香をわいせつ目的で攫われ暴行
の上殺された。妻は加害者に対し温情判決が出るような証言をした龍樹を
許せず去った。彼は今飲み屋をやっている。
 彼は被害者の会で入手した被害者の情報をもとに、どうしようもない社
会の屑共に対し復讐を加えている。それは見事なほど残虐である。

 多くの女性を陵虐し何人かは自殺にまで追い込んだ犯人堀江幸広。彼は
椅子に拘束された状態で刺殺された。

 性的欲望から10歳の女児を誘拐、陵虐し死に追いやった野島恭介。半田
は服役中の彼に毎月面会し悔悟の様子を確かめている。しかし、野島は特
別な事情もなく同年配の服役者に殺された。

 同棲中の女と連れ子に暴力をふるい妻に熱湯をかけ重傷を与えて服役、
仮釈放の身で即仕返しに舞い戻った三橋昭悟。彼は待ち構えていた竜樹に
つかまり、目に熱湯をかけらるというお仕置きを受ける。

 飲酒運転でかつスピード違反で小学生5人をひき逃げした金持ちのバカ息
子は、出所後またも飲酒運転したため半田につかまってダムに沈められた。

 会社で自分の能力が正当に評価をされていないという鬱憤を晴らそうと、
ネットで闇サイトをつくり、匿名で個人情報を暴露し、事の真偽にはお構
いなく自分の主義主張に合わないものは排除・否定する。その結果被害者
家族の人生を狂わせる結果を招いた速水怜治。琴平直子は弟がわいせつ事
件を起こした時に、家族として個人情報を流され中傷・誹謗の的にされ職
場を追われた。
 半田は彼がつくったサイトに速水の仕儀に実名と住所、メルアド、電話、
写真、勤務先まで載せ社会的に抹殺した。

 人が死ぬ瞬間を見たいという願望を持つ男高塚則夫。半田は自身が殺人
被害者になるべく罠に掛けようとしたが、偶々通りかかった少女を殺傷の
被害者にしてしまった。高塚を束縛し首吊り自殺を装って殺す。

 小中学生を言葉巧みに誘い込み、ロリコン趣味の大人の相手をさせ稼い
でいる倉科太一。マンションの一室に隠しカメラを設け、少女らの淫らな
写真を撮ったり、淫行させ、その画像・動画などを商品化し顧客に届けて
いる。
 半田は倉科を拘束しこれら顧客データを抑えてネットに公開する。顧客
には著名な政治家、財界人、文化人などが名を連ねていた。もみ消しを命
令された刑事らは半田に拘束されていた倉科を殺し半田の仕業に偽装しよう
としたが、一部始終が録画されていてこれもネットで公開される。

 半田はこうした悪人を懲らしめなければならないという使命感と、罪の
意識が良心を苛む。それでも修羅の道を歩むしかない。
 ともに犯罪被害者の家族として辛い過去を背負いながら、人間の罪と罰
を語り合った半田竜樹に琴平直子は思いを寄せるが竜樹は自らの罪を思い
これに素直に応えることができない。

 半田は飲み屋を琴平直子に任せて、日本海の離島で隠遁生活に入る。
                      
                        (以上この項終わり)




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