読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

スコット・トゥローの『無罪』

2014年07月25日 | 読書

◇ 『無罪』(原題:INNOCENT)  著者: Scott Turow
                        訳者: 二宮 磬    2012.9文芸春秋社 刊

   


  スコット・トゥローの傑作『推定無罪』の主役ラスティ・サビッチが再登場する。 23年前、検事
 補を殺した裁判で無罪を勝ち取って、いまや州最高裁判事に立候補するという栄光の座を目
 前にしたラスティは、かつて検事補殺しで彼を訴追し、いまは地方検事代行の座にあるトミー
  ・モルトに妻殺しの容疑で再び法廷に引きだされることになった。

  上訴裁判所判事のサビッチと地方検事代行のモルトの因縁の対決が始まった。
 話はサビッチ、トミー、サビッチの息子ナット、サビッチの不倫相手のアンナの口で語られる。
  サビッチの妻バーバラは心臓疾患を抱えた重度の躁鬱病患者。ある日ベッドで傍らに寝た妻
 が死んでいるのを発見する。しかしどういうわけか彼はその傍らで24時間も何もせずにすごし、
 訪ねて来た息子ナットに促されてやっと警察に届け出る。遺体発見後の空白時間にいったい
 何があったのか。かつて検事補殺しで一敗地にまみれたモルトはサビッチ追い落としの執念に
 燃える部下の検事補ジム・ブランドに迫られて、ついに再びサビッチ訴追に踏み切る。
 
  薬の過剰摂取なのか、夫サビッチが飲ませたのか。自殺なのか、夫による謀殺なのか。法廷
 で明らかになるいくつもの状況証拠の積み重ねで、検察側の決定的勝利にたどり着いたと思っ
 た直後、新たな事実が明らかになる。
  本書は前半でサビッチ判事の不倫関係と家庭事情が語られ、後半で法廷シーンが展開され、
 最終段で父と息子の対話の中で真相が明らかになる。
 
  検察側は不倫の事実( 実はバーバラの死の1年以上も前からサビッチは判事付きの調査官
 アンナと不倫関係にあった)、サビッチの離婚相談、薬剤の危険性検索、薬剤瓶の指紋等から
 十分な殺害動機・実行機会・犯行隠蔽の証拠ありと検察側は主張するのであるが、法廷では
 かつての裁判でサビッチを無罪に導いた親友弁護士スターンは娘のとこれに敢然と立ち向か
 う。 
 
  法廷の攻防過程で山場が何度かある。
 ①強力な抗鬱剤フエルジンの購入し、一緒に摂ると4倍の作用が現れる(死の危険も)食べ物
  を買ってきて与えていた。
 ②バーバラは銀行小切手受領書から夫の不倫と離婚意図に気が付いた。
 ③法廷尋問過程で、サビッチのパソコンの中から妻が書いたと思われる、サビッチを陥れる内
  容のメッセージが現れる。
 ④サビッチが裁判妨害(パソコン操作)で有罪を認め、殺人は否認する司法取引を申し出る。
 ⑤実はブランドがパソコンに細工をしていたことがわかった。やむなくトミーは有罪取引の無効、
  起訴の取り下げを申し出る
 ⑥ナットに「お父さん、ほんとのことを話してほしい」と言われたサビッチは、妻の自殺と自分が
  24時間かけて考えて行き着いた、ことの真相を語る。

  それにしてもサビッチの浮気相手アンナは、別れた後息子のナットといい仲になってしまうの
 だが、ナットは父とアンナの関係を全く知らない。スリリングではあるがちょっとあり得ない話で
 はないだろうか。いつかひょんなことでばれるのではないかと余計な心配をした。

  (以上この項終わり)

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