先月の中旬に乳癌を告知されました。
長い間ダンナのギャンブル依存症に悩まされ、7年前に病気のことを知って
同時に司法書士さんにお願いして債務整理をし、2年前にその返済も終わって、
今後に向けて少しづつ生活を立て直しはじめたその矢先。
今年の正月に読んだ高村薫さんの「冷血」の中の「巷には、俗に言う『ツキ
のない人生というやつがごろごろしているが、ここまで絵に描いたように不運
が続く男はほんとうに珍しかった」という一文が思わずフラッシュバックして
しまいました。
その「絵に描いたように不運が続く男」戸田吉生は、クリスマスの前夜に歯
科医師宅に押し入り、幼い子供を含めた一家四人を惨殺した犯人のひとり。子
どもの頃から歯が悪く、長じて犯罪者となってからも、刑務所と歯医者通いを
反復する人生。
殺人で逮捕されてからも、事情聴取よりまずは歯科の治療という状態だった
戸田に、追い打ちをかけるように歯肉癌が見つかったというくだりでした。
まったくこのブログを読まれている方からは「えっ、ネタじゃないの?」と思
われそうな展開になってしまいましたが事実です。
左胸にかなり大きな腫瘍があるのに気づいたのは昨年の五月。「あれ、これ
は何?」とは思いましたが、たぶん子どもにおっぱいをやっていた時にかかっ
た乳腺炎の名残が、更年期になって慢性化したんだろうと思って、取り合えず
湿布をして放置してました。
が、その内に表面が破れて何だかすごいことになってきました。さすがに
「ばい菌でも入ったら」と不安になって病院にいったら、いきなりの癌告知。
「左の乳癌で腋のリンパ節に転移。手術はできない」とのこと。
実は私はそもそも「癌」というのは、体の奥深くにこそっと出来ていて、
精密検査みたいなことをしない限りみつからないものだと確信していたので、
乳癌に半年以上せっせとサロンシップを貼っていたバカ女ということになり
ます。
その初診の日、エコーとマンモと生検というのをやって支払いが2万円。
「来週MRIを」と言われたので「それ、幾らですか?」と聞いたら「3万円
くらい」と言われて愕然としました。
「次の検査は月末にお給料が出てからではだめですか?」と言ったら、医師
は信じられないという表情で「経済的に厳しいなら生活保護ということも考
えたら」みたいなことを言いました。
私としてはこの一連のやり取りにもの凄く違和感がありました。
その日もし食事をしてなかったら、いやおうなくMRIまでやらされていた
はずで「何?この前のめりな感じは」と思いました。しかも数分前に癌を告
知した人間に「生活保護」という言葉を発する無神経が信じられなかったの
です。
ダンナは普通に働いていますから治療のために保護を受けるとなれば、離
婚するか、ダンナが仕事を辞めて無職になるかというような話なわけです。
目の前にいるのは、家族もあって生活もある心と体を持った一人の人間なの
です。それを無視した「まずは治療ありき」の医師のこの姿勢は、普通の人
間の常識ではあり得ないと思えてしまったわけです。
結局経済的な問題なども相談に乗ってもらえるという総合病院に紹介して
もらうという選択をして紹介状を書いてもらい、医師の苦虫を噛み潰したよ
うな顔をものともせず、そこを受診するのは次の給料が出てからという希望
を押し通して初診を受けたその病院とは縁を切りました。
次の受診までには半月近く間があるので、いつものことながら癌という病
気についてや、治療法についてなどを主にネットでざっくりと調べました。
まず癌という病気自体が、個人の細胞もっと言えば遺伝子というレベルの、
とても個体差の大きな病気なのではないのかということです。
病気の原因となるものも特定されているわけではなく、私のように進行
していれば、これなら大丈夫という確定した治療方法があるわけでもない。
というより、すでに治癒という次元はとっくに超えて、延命をどうする
というレベルなのです。そしてどういう治療を選択してもすべてケースバ
イケースで、まさにやってみなければ分らないのだという当たりまではな
んとなく理解できました。
そこで現在の癌治療は主に手術や抗ガン剤、放射線によって癌細胞にダ
メージをあたえ、他の臓器への転移や再発を防ぐことで、病気の広がりを抑
えるという治療方法なのだと思います。けれど癌の細胞にダメージを与える
ほどの治療は、当然健康な細胞にも影響を及ぼすはずです。つまり治療のメ
リットとデメリットは、私のような進行癌の場合はハーフハーフ、これまた
やってみなければ分からないわけです。
だからこそ、有名人の人で、手術にしろ治療にしろ、最高水準の治療を
受けたはずの方が術後数ヶ月、あるいは一年未満で亡くなるというような
事例が起こるのだと思いました。
そうこうする内に吉野実香さんという方の「癌と闘わずに。。」という
ブログに出会いました。吉野さんは乳癌を治療せず、すでに余命宣告され
た期間も過ぎておられますがとても自然体で、やさしいご主人とお子さんと、
3匹の猫ちゃんたちと、毎日を楽しく充実した時間を過ごしておられる。
その感じが今の自分の思いに一番ぴったりきました。いろいろ見たり聞
いたりしても、私には医学的な難しい理屈はわかりません。でも同じ時間
とエネルギーを使うのであれば、それは癌という病気と、勝敗の分からない
闘いをやるよりも、自分がやりたいこと、やろうと思っていることのため
に使いたいたいとすんなりとそう思えました。
けれどこの決断と結果はあくまでも自己責任です。それであとあと死ぬ
ほど苦しまないという保障は、これまたどこにもありません。
自分ではそれを納得できても、たとえば家族に、同僚に、あるいは親し
い友人に何をどう伝えるかが悩ましいところではありました。(続く)
長い間ダンナのギャンブル依存症に悩まされ、7年前に病気のことを知って
同時に司法書士さんにお願いして債務整理をし、2年前にその返済も終わって、
今後に向けて少しづつ生活を立て直しはじめたその矢先。
今年の正月に読んだ高村薫さんの「冷血」の中の「巷には、俗に言う『ツキ
のない人生というやつがごろごろしているが、ここまで絵に描いたように不運
が続く男はほんとうに珍しかった」という一文が思わずフラッシュバックして
しまいました。
その「絵に描いたように不運が続く男」戸田吉生は、クリスマスの前夜に歯
科医師宅に押し入り、幼い子供を含めた一家四人を惨殺した犯人のひとり。子
どもの頃から歯が悪く、長じて犯罪者となってからも、刑務所と歯医者通いを
反復する人生。
殺人で逮捕されてからも、事情聴取よりまずは歯科の治療という状態だった
戸田に、追い打ちをかけるように歯肉癌が見つかったというくだりでした。
まったくこのブログを読まれている方からは「えっ、ネタじゃないの?」と思
われそうな展開になってしまいましたが事実です。
左胸にかなり大きな腫瘍があるのに気づいたのは昨年の五月。「あれ、これ
は何?」とは思いましたが、たぶん子どもにおっぱいをやっていた時にかかっ
た乳腺炎の名残が、更年期になって慢性化したんだろうと思って、取り合えず
湿布をして放置してました。
が、その内に表面が破れて何だかすごいことになってきました。さすがに
「ばい菌でも入ったら」と不安になって病院にいったら、いきなりの癌告知。
「左の乳癌で腋のリンパ節に転移。手術はできない」とのこと。
実は私はそもそも「癌」というのは、体の奥深くにこそっと出来ていて、
精密検査みたいなことをしない限りみつからないものだと確信していたので、
乳癌に半年以上せっせとサロンシップを貼っていたバカ女ということになり
ます。
その初診の日、エコーとマンモと生検というのをやって支払いが2万円。
「来週MRIを」と言われたので「それ、幾らですか?」と聞いたら「3万円
くらい」と言われて愕然としました。
「次の検査は月末にお給料が出てからではだめですか?」と言ったら、医師
は信じられないという表情で「経済的に厳しいなら生活保護ということも考
えたら」みたいなことを言いました。
私としてはこの一連のやり取りにもの凄く違和感がありました。
その日もし食事をしてなかったら、いやおうなくMRIまでやらされていた
はずで「何?この前のめりな感じは」と思いました。しかも数分前に癌を告
知した人間に「生活保護」という言葉を発する無神経が信じられなかったの
です。
ダンナは普通に働いていますから治療のために保護を受けるとなれば、離
婚するか、ダンナが仕事を辞めて無職になるかというような話なわけです。
目の前にいるのは、家族もあって生活もある心と体を持った一人の人間なの
です。それを無視した「まずは治療ありき」の医師のこの姿勢は、普通の人
間の常識ではあり得ないと思えてしまったわけです。
結局経済的な問題なども相談に乗ってもらえるという総合病院に紹介して
もらうという選択をして紹介状を書いてもらい、医師の苦虫を噛み潰したよ
うな顔をものともせず、そこを受診するのは次の給料が出てからという希望
を押し通して初診を受けたその病院とは縁を切りました。
次の受診までには半月近く間があるので、いつものことながら癌という病
気についてや、治療法についてなどを主にネットでざっくりと調べました。
まず癌という病気自体が、個人の細胞もっと言えば遺伝子というレベルの、
とても個体差の大きな病気なのではないのかということです。
病気の原因となるものも特定されているわけではなく、私のように進行
していれば、これなら大丈夫という確定した治療方法があるわけでもない。
というより、すでに治癒という次元はとっくに超えて、延命をどうする
というレベルなのです。そしてどういう治療を選択してもすべてケースバ
イケースで、まさにやってみなければ分らないのだという当たりまではな
んとなく理解できました。
そこで現在の癌治療は主に手術や抗ガン剤、放射線によって癌細胞にダ
メージをあたえ、他の臓器への転移や再発を防ぐことで、病気の広がりを抑
えるという治療方法なのだと思います。けれど癌の細胞にダメージを与える
ほどの治療は、当然健康な細胞にも影響を及ぼすはずです。つまり治療のメ
リットとデメリットは、私のような進行癌の場合はハーフハーフ、これまた
やってみなければ分からないわけです。
だからこそ、有名人の人で、手術にしろ治療にしろ、最高水準の治療を
受けたはずの方が術後数ヶ月、あるいは一年未満で亡くなるというような
事例が起こるのだと思いました。
そうこうする内に吉野実香さんという方の「癌と闘わずに。。」という
ブログに出会いました。吉野さんは乳癌を治療せず、すでに余命宣告され
た期間も過ぎておられますがとても自然体で、やさしいご主人とお子さんと、
3匹の猫ちゃんたちと、毎日を楽しく充実した時間を過ごしておられる。
その感じが今の自分の思いに一番ぴったりきました。いろいろ見たり聞
いたりしても、私には医学的な難しい理屈はわかりません。でも同じ時間
とエネルギーを使うのであれば、それは癌という病気と、勝敗の分からない
闘いをやるよりも、自分がやりたいこと、やろうと思っていることのため
に使いたいたいとすんなりとそう思えました。
けれどこの決断と結果はあくまでも自己責任です。それであとあと死ぬ
ほど苦しまないという保障は、これまたどこにもありません。
自分ではそれを納得できても、たとえば家族に、同僚に、あるいは親し
い友人に何をどう伝えるかが悩ましいところではありました。(続く)