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癌と生きる 依存症と生きる

命がある限り希望を持つということ

「土の記」を読んで

2017-06-23 15:33:10 | 社会・生活
先日購入した高村薫さんの「土の記」を読了した。
実は、この作品の前の前に出版された「四人組がいた。」を読んだ時に
「ついに高村さんは、今の社会や世相に匙を投げたんじゃないか。
もう新しい作品は、書かないんじゃないか」と、心の底から心配していた。

かつて「神の火」で、チェルノブイリの事故を踏まえて
逆説的な形で、原発の是非を問うたり
「レディ・ジョーカー」から
「晴子情歌」に始まる「福澤三部作」や「冷血」で
現代の政治、企業活動、恋愛、宗教、家族、犯罪と
書き手も読み手も、脳のシナプスがショートするくらい
幾千幾万の言葉を積み上げ、組み上げて
世の中に「人間とは何か」を問うてこられた高村薫さんの忍耐も
「太陽を曳く馬」のあたりで
そろそろつき始めているのではないかという予感があったからだ。

そして東日本大震災のあとに書かれたのが
初のユーモア小説と銘うった「四人組がいた。」と「空海」だった。
初期の作品にはしばしばキリスト教に関わる表現があったのが
「新リア王」以降は、仏教に対する親和性が感じられるようになって
その当たりが高村さんの到達点になるのだろうかと思っていたが
どうもそうではないようだ。

「土の記」は、奈良の大宇陀という山奥の集落に暮らす、72才の伊佐夫の物語。
タイトルも地味だけれども、舞台も登場人物も
そこで起こる事件も地味なことこの上ない。
けれども、こういう小説を世に出してくれる出版社がまだあることが嬉しい。

伊佐夫は、もとはシャープの社員だったが
大宇陀の旧家の婿養子になり
16年前に交通事故で植物状態になった妻を介護しながら
今は妻が担ってきた農家の仕事を継いで、日々を送っている。

野生の茶の木を育てて茶畑を作り
「伊佐夫さんのコメ作りは理科の実験」と言われるような独自のやり方で稲を作り
親戚や近所と付き合う日常の中で
多少認知症も出始めているのか、過去と現在の境界があいまいになっている。
「昭代(妻)のオムツを替えなければ」と思う端から
「そうか、昭代は年の初めに死んだのだ」という具合に。

精密に、詳細に描かれる大宇陀の自然、農業の手順
風や雨の音、蛙の声、珍しい植物の姿や名前。
そして東日本大震災が起き、その振動は遠く離れた奈良の地にも伝わる。

「どれだけの数に上るのか分からない死者たちが
一夜のうちに生き残った者の世界を一気に組み換え
一本の草もただの草ではなく、土も土ではなく、空も空ではない
三・五次元の位相が現れたのかもしれない」

本当にその通りだと思った。
あの時、私たちが向き合ったのは、自分たちがほとんど経験しなかった
むき出しの生と死の姿だった。
植物も動物も人も、命ある者は皆生きていて
けれどその生の裏側に、死は逃れられない真理として張り付いている。
生ある者の死を、自然の摂理として
それほど恐怖を感じずに受け入れられるようになるのは
60年、70年生きてきたからこそで
多くの、命ある者にとって、死はどこまでも残酷で理不尽なものだ。

それでも、老いるということは
そういう生と死の境界が、次第にあいまいになっていくということでもある。
伊佐夫の回りでも、妻の昭代が死に、実の兄が死に
妻をダンプではねた男が死に、昭代の妹の夫が死に、と何人もの人が死ぬ。
その中で、伊佐夫は次第に、生者と死者、さらには遠い昔の先祖の霊に至るまでが
混在する、現実と非現実の入り混じった世界に生きるようになっていく。

どんな山奥の暮らしであれ
それなりに、浮いたり沈んだりのある人間の日常ではあるのだが
「土の記」は、そうした世俗の諸々をきっちりと描きつつも
どこか夢幻的でとても美しい。
実はこの小説は、会話文に一つもかぎかっこが用いられていないのだが
そのことが、まるで古典文学を読んでいるような
不思議な心持ちにさせてくれるのだ。
自然と人間、過去と現在、そして生者と死者の全てを包み込んで
静寂の中に存在する、一種の宗教的とも言える
広範な奥行きを感じさせる、とても心地よい世界。

しかしながら、こういう生と死と、あらゆるものが混然となった世界を
語ることができるのは、やはりそろそろお迎えが来そうな年齢になればこそで
それを読んで心から感動できるというのもまた
自分がボーダーラインに近づいているからこそなのだろうと思う。

この本を読んだあとに、珍しくしみじみとダンナに
「私ね。あなたと二人で、毎日こんなに穏やかに暮らしていられるのは
やっぱりがんになったからだと思う。もしもがんになってなかったら
あれだけ散々いろんなことがあって、子供たちもルナもいなくなって
ここまで穏やかに暮らすのは難しかったかもね」と言ってみました。
死と向き合うことで、見えてくるものもあるというのは
私の今の実感でもあるからです。
その真意がどこまでダンナに伝わったかはわかりません(笑)
でも、生きているうちに、またこういう本に出会えて本当によかったと思います。



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天神でランチ そして通院日

2017-06-14 10:17:18 | 癌のこと
久しぶりに、子育て仲間の友達から電話があって
天神でランチすることに。
熊本と宮崎の友達は、わざわざ来てもらうのは大変なので
彼女たちが、福岡に来る予定がある時に
私たちが合流するのが一番無理がないということで、今回は二人で。

彼女は長い間天神で働いていた人なので、いやぁ、よく知ってるわ。
天神に行っても、喫煙できるし安いので
サイゼリアとか、スタバ、ドトールばっかりリピートしてた私とは大違い。
なので、完全におまかせで
彼女がチョイスしてくれた、西通りの無〇良品の中のカフェ。
お野菜たっぷりの、お腹に優しい、とってもおいしいランチでした。

二人でもおしゃべりしてると、すぐに2、3時間が過ぎ
彼女と別れて、ジュンク堂へ。
しばらく買うのを我慢していた、高村薫さんの「土の記」をゲットして
久しぶりの天神を満喫して、ルンルンで、帰宅しました。

前にも書きましたが、私以外の3人は、みんな親の介護を抱えています。
昔は、子育てが終わったら、のんびり自分の時間が持てると思ってたのが
現実は、全然そんなふうにはなりません。
年々楽になるどころか、親御さんに認知症などが出てくると
反対に、年々ちょっと遠出するのも難しくなりますから、本当に大変です。
そういう意味では楽をしている私が言うと、怒られそうですが。

そして昨日は通院日でした。今回もダンナ同伴。
腰と腸が落ち着いたと思ったら、背中に痛みが出ました。
昼間起きて動いている時は、ほとんど感じないのですが
夜寝た体勢になると、背中に押し付けるような鈍痛があって
寝返りする時や、トイレに立つ時は「うううぅぅ~」という感じでした。

それでも眠れないわけではないし、昼間は痛くないので
通院日を待って、先生に相談。
ギックリ腰でMRIをとった時に、明確な骨転移はなかったようなのですが
怪しいところがあるとは言われたので
「やっぱり骨転移でしょうか」とお聞きしたら「多分そうでしょうね」と。

で、ワントラムに追加して、タペンタという、わりと新しい麻薬性鎮痛剤を
処方していただきました。
夕べそれを飲んだら、いやぁ、本当に効くものなんですね。
痛み方が、なんとも微妙な痛みだったので半信半疑でしたが
7割がた痛みがなくなり、夕べは久しぶりに、すごく楽に寝ることができました。
やっぱり現代医学ってすごいと、少し見直してしまいました。(コラッ)

主治医の先生は、緩和ケアについてはプロってる感じで
どのお薬も最初は少量から、飲む回数が増えたら、お薬を変更されますが
絶対にこの量をこの回数飲んでくださいということではなく
痛み止めなんかは、自分の体の感じに合わせて調節していいと言われます。
だから「これとこれは、まだお薬が残ってます」というと
「ああ、じゃあ今月はそれはパスしましょう。
また無くなったら言ってくださいね」と。
今回痛み止めを追加したので、頓服のトラマールや
ロキソニンは飲んでも飲まなくてもいいですよということでした。

なので、今朝は朝バナナを一本食べて、ロキソニンと胃薬、酸化マグネシウムを飲み
昼ご飯の後に飲んでいたロキソニンはパスしてみようと思います。
それで夕方痛みが出ないようなら
夜ご飯を食べたあとに、ワントラムとタペンタ、それとホルモン剤のフェマーラで
これで大丈夫そうなら、しばらくこんな感じで行ってみようかなと思います。

血液検査の結果は、若干の変動があって
腫瘍マーカーのCEAが 6.6(0-5)
       CA15-3 97.8(<25.0)
マーカー値も、患部の広がり方や肝臓の腫瘍の増大、体のだるさとかに
おおむねリンクしていて
当然のことながら、そしてとてもゆっくり進行しているのだろうと思います。
けれど、取りあえずは、子供たちに手伝ってもらったりしなくても
何とか家のことはやれているので、これ以上を望むのは欲張りだと思いますし
いけるところまでこれでいいのではないかと思っています。



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依存症と末期がん

2017-06-08 10:43:24 | ギャンブル依存症
ギャンブル依存症対策については
国の方針がこうと決まるまでは
何を言っても、推測の域を出ないのではありますが。

ただこれまで、ギャンブル依存症者や家族の回復は
長い間、ジャパンマックやGAやギヤマノンといった
12ステッププログラムに沿った回復施設や自助グループ
あるいはアルコール依存症の治療の実績がある
数少ない医療機関が担ってきました。


精神福祉センターや保健所に相談しても、そうした医療機関を紹介されるか
本人だったら「GAに行ってください」家族であれば「ギヤマノンへ」と
ほぼ丸投げされていたのが現実でした。
そして自助グループでは「ギャンブルをやめる」ことが大前提です。

国のギャンブル依存症対策の指針がどのようなものになるにせよ
これまで自助グループで回復に取り組んでこられた、本人や家族の人たち
セミナーなどでギャンブル依存症の回復について学んでこられた
援助職の人たちにとって、「ギャンブル依存症は自然治癒もある病気です。
必ずしもギャンブルを止めなくてもいいですよ」という
晴天の霹靂みたいな話が出てくると
とても困惑されるだろうし、混乱もされるのではないかと
いやホント、余計なおせっかいだということは百も承知で
「ギャンブル依存症について、こういう最新の学説
治療法が登場しています」という
情報を発信してみたわけです。

十年前の私が、このニュースを聞いたら
「こんなの絶対業者と医療界と厚労省の癒着だ!」と
頭から火を噴いていたかもしれません。
それが、今では「この話の根拠はなんなのか」を冷静に、客観的に
調べたり考えたりできるようになったので
ずいぶん大人にもなったし、丸くもなったと自画自賛しています。(嘘です)

この変化の根底には、自分ががんという病気になったことも大きく影響しています。
依存症もがんも、科学的なメカニズムは
まだ完全には解明されていません。
だから、がんであれば、新しい学説がでてきたら
新しい治療法やお薬が開発されて、実用化されますが
ステージ4の末期がんが治るというような治療は、まだほとんどありません。

ですから、あとは自分自身の選択になります。
エビデンスに基づいた標準治療
お金に糸目をつけなければ、最新の治療や新薬やオンコロジー
少量の抗がん剤治療や休眠療法
緩和ケアでの疼痛コントロールや放置療法に至るまで
どの治療が可能か、どういう治療を受けたいかを自分で決めるわけです。

依存症も同じで、特にギャンブル依存症の場合は
医学的な対処法(投薬、注射、化学療法など)がないことは
前出の河本先生も明言されているところで
心理学的アプローチでのいくつかの選択肢がある中から
自分はこの方法で回復しようと決めて回復に取り組むことが最善です。
ですから、たとえ最新の学説であっても
それも選択肢の一つととらえるほうが良いのではないかと思います。

ギャンブル依存症の勉強を始めた頃には
回復するためには、自助グループのミーティングに参加して
12ステッププログラムを実践することで
ギャンブルを止め続け、ギャンブルに依存しない生き方を見出す
それが唯一の正解だと思っていましたから
このブログでも、以前の記事ではそんなふうに書いています。

その後認知行動療法などの精神医療的なアプローチもあり
早期であれば、動機づけ面接なども有効
横浜のワンデーポートのような、独自のカリキュラムに基づく回復施設など
必ずしも12ステッププログラムによらない回復があることも知りました。
ですから、最近は、自分が心の底から回復したいと望むなら
どのやり方でも回復の可能性はあるのではないかと考えています。

けれど私にとって、依存症やその治療について学んだことや
12ステッププログラムとの出会い

例えば、ハンドブックの表紙に書かれた「ニーバーの祈り」の

「神さま、私にお与えください
自分に変えられないものを
受け入れる落ち着きを!」という言葉や
「今日一日」という考え方は
生きていく上でも、がんと向き合う時にも
とても大きな意味を持ちました。

ですから、こうした従来からの考え方とは180度違う考え方が
「新しい学説」として出てきたとしても
そのために、これまでの考え方ややり方が否定されるべきではないし
どの方法でも回復の可能性はあるという
ゆるやかな認識が広がってくれたらいいなというふうに思っています。


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ギャンブル依存症対策の行方(2)

2017-06-02 15:28:07 | ギャンブル依存症
政治の動きとしては
現在「ギャンブル等依存症対策基本法案」が国会に提出されていて
今期の国会での成立を目指しているようです。

法案の内容はネットでも読むことができましたが
今の段階では国と地方公共団体、医療機関、精神保健福祉センター、保健所
その他の関係機関で連携して
ギャンブル依存症などの対策に取り組みましょうという
あくまでも総論的な内容で、対策の具体的な中身は
法案が決まってからということなのでしょう。

具体策としては、都道府県や市の精神福祉センターや保健所に
専門の相談窓口が設けられるとか
対応してくれる医療機関が増えるとかになると思われます。
その場合の、治療やアドバイスの指針になるのが
ギャンブル依存症が発生した初期から治療にあたられた田辺等先生や
久里浜医療センターでギャンブル依存症治療外来を開設された
河本泰信先生のような専門家の方の見解ではないかと考えられるので
そこを少し勉強してみたかったのです。

その河本先生が、「明日を拓く」という日遊協(パチンコパチスロ関連企業の業界団体)
のインタビューに答えられている中で
もう少し専門的な内容をお話しされていました。
冒頭には「相談者の9割はパチンコやめろとは言いません。
症状の見極めが重要です」というコメントが書かれています。

DSM-5の診断基準では9つの項目があり
重症度の分類は、4~5つ該当すれば軽度、6~7つは中等度 8~9つで重症
経緯分類では 慢性進行型と単発型に分けられています。

治療に関しては、医療モデルを医学モデルと心理的モデルに分けてあります。
医学モデルは、依存症のメカニズムと考えられている
脳内報酬系における神経伝達物質の変化、つまりドーパミンの異常については
結局薬物投与などの、確立された治療法はないということ。

それで依存症の分析と治療には「認知モデルⅠ・Ⅱ」と「力動モデル」という
心理的モデルが用いられますが、河本先生が実践されているのが
「認知モデルⅡ」に基づいた治療、即ち金銭欲から離れ
他の目的に転化するというもので、ほとんどの患者がギャンブルを止めるか
小遣い範囲のギャンブルに戻っているということです。

まあ家族のギャンブルの問題に何十年も振り回されてきた家族からすれば
そんなに簡単な話かなあと、眉に唾をつけたくもなる訳ですが
これがアメリカの精神医学会の最新の知見に基づく治療ですと言われたら
そうですかという他はありません。

ただ河本先生のように、立派な治療実績のある専門家の先生が
日本中に何千人もおられて、ギャンブル依存症の人がみんな
最新の治療を受けられるというような現状ではありません。

泥縄式のギャンブル依存症対策で
精神保健センターや保健所などの公的な機関や、業界の人なんかで
何回かギャンブル依存症の研修を受けた人たちが
相談窓口の相談員として、この最新の学説の一部だけを理解して
「ほとんどの人は自然に治ります。
必ずしもギャンブルを止める必要はありません」というようなアドバイスをしたり
専門家ではないのに「この人は精神的な疾患だろう。
この人は発達障害があるだろう」と仕分けをしたり
というような展開になったりはしないだろうなと
こういう問題に関しては、何しろ今までが今までですし
ついつい、あれやこれやと予期不安の塊になるわけで
これが全て、超マイナー思考の病人の妄想、杞憂であることを願っています。

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