息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

レクイエム

2014-11-17 11:03:34 | 著者名 さ行
篠田節子 著

異世界への扉はいたるところにある。
それが平凡で地味な暮らしであればあるほどに、落差は大きい。
どれも甲乙つけがたい深みのある5編がおさめられている。

物語の完成度もさることながら、登場人物たちの暮らしぶりの描写の
細やかさに驚く。
ノンキャリアとキャリアの公務員の書かれ方などすごい。
そして、当然の権利とはいえ、産休育休をフル活用して、
ほぼ職場にいない職員の存在も。
これって実際に10年勤続ながら、実際現場にいたのは1年にも満たないという例を
知っているだけにしみじみした。
制度があるのも権利が守られるのもいいのだが、支える人もフォローしてっていう。
いや本題とは関係ないのだけど。

表題作は太平洋戦争時の悲惨な体験を描いたものだが、実際にガダルカナルなどでは
戦いどころか、ただ餓死があるのみだったという。
一人の兵が戦うためには、その背後に2人のスタッフが控えるべきだと聞いたことがある。
確か米軍の話であったと思う。それは補給であったり医療であったりするわけだが、
太平洋戦争時の日本はそれらをすべて根性で解決しようとしていたようだ。
国からすら見捨てられた極限状態の経験は、生きた者も死んだ者も支配する。
何とも切なく後味が悪く、それでいて読んでよかったと思わせる話だ。

なんていうのか、さらりと感想を述べるなんてできそうにない。
こんなにひとつひとつが印象的な作品ばかりの短編集も珍しい。