息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

聖なる怪物たち

2014-07-12 10:42:20 | 著者名 か行
河原れん 著

医療の現場にある果てしない問題と、代理出産というテーマを
綿密な取材で描き出した作品。
テレビドラマになってたんだなあ。知らなかった。
確かに見応えある映像になりそうだ。

経営に問題を抱える地方の総合病院で働く外科医・健吾は、
慢性的な人手不足、設備の老朽化による過剰勤務に苦しんでいる。
その日も限界に近い連続勤務の果てに、駆け込み出産の妊婦がやってきた。
身元もわからず、胎児は逆子。
追い詰められた健吾は帝王切開を行うが、突然の容態悪化で妊婦は死亡。
誰かわからない未熟児だけが残される。

病院に出入りする怪しげな男。
脅迫される看護師長と、健吾の自宅で襲われた同棲中の看護師・瑶子。
自分の医療ミスの可能性を捨てきれないままに、沈黙を守る健吾だったが、
突然解雇されてしまう。

謎を生み出したのは、登場人物たちそれぞれが抱える心の闇。
子供を望む気持ちと、疎む心。
最後の最後にさらに話が展開し、まったく油断できない。

難を言うなら、代理出産についてもう少し突っ込んでもらいたかったかな。
これは無意識に産婦を下に見なければできないことであると思うし、
出産時の危険も桁外れに大きいことが言われている。
また、ここまで突き詰めた両親のパーフェクトベビー願望も大変なものが
あるらしい。
この新生児にもし何らかの障害があったり、外観に何らかの瑕疵があった場合、
扱いはまったく変わったのではないか。たとえ出産時の事故が原因でも。

それから瑶子が抱える家庭の事情はあまりにさらりと流されて驚いた。
出ていけば視界から消えるのでいいのか?と思うくらい。

リズミカルに楽しく読むには非常によかった。

ギフト

2014-07-11 10:49:29 | 著者名 た行
日明恩(たちもり めぐみ)著

重い過去を抱え、レンタル店の夜勤をする須賀原は、
何に対しても心を動かすまいと決意していた。
しかし、ある日、ホラー映画の棚の前で涙を流す少年に出会う。

毎日店に来ては涙を流す少年・明生は死者が見えるのだといった。

死んだ時のままの姿で、なんとか話を聞いてもらおうとする死者。
明生が“見える”ことに気づくと、彼らはどこまでもつきまとうという。
その能力は両親を含む周囲の人を困惑させ、苦しめた。
明生は息を潜めてどうにか生きてきたのだ。

お互いを見つけたとき、須賀原と明生は協力し合い、
死者たちに手を貸そうとする。
死の記憶は途切れていたり、曖昧だったり、伝える術がなかったりする。
自分だけの思い込みに閉じこもっていることもある。
どうして欲しいのか、それを理解するのも難しい。
何人もの死者に出会い、その旅立ちを見送っていくうちに、
ふたりは自分自身が抱える問題にも向き合うことになる。

須賀原は刑事だった。仕事熱心で真面目に働いていたことが
あるとき仇となり、中学生を死なせてしまった。
彼は警察官の息子であり、「息子の死を忘れるな」という
父親の言葉が須賀原を縛り付けた。

明生の手を借り、中学生・正義とコミュニケーションをとる須賀原。
彼は迷い、父への思いから自分の死の場面を延々と繰り返していた。
正義と両親の心が通いあったとき、須賀原の心も開放される。
そしてそれと時を同じくして、明生も自分の道を進む決意をしていた。

だれも悪人などいないのに、苦しむ姿が切ない。
こんなふうに誰かが解きほぐしてくれればどんなにいいかと思う。
しかし、その役割はあまりに重く、明生はずっとあえいでいたのだ。

人の心の描写は素晴らしいと思う。とくに自分自身を認められない圭子の
心理は、人間の心の虚しさというかバカバカしさをうまく表現している。

Q&Aでわかるおとなの食育新常識100

2014-07-07 10:34:56 | 著者名 わ行
若村育子 著

これはなかなかのお役立ち本。
知っていることもあるけれど、本当にそれでいいのかと不安だったり、
まったく誤解していたりする食情報がQ&Aですっきりまとまっている。
イラストも豊富で、小学生でもわかりやすそうだ。

たとえば食品の酸性アルカリ性というのはいまや否定されているが、
ダイエット情報や健康食品の記事などでは、当然のように目にするので、
信じている人は多そうだ。
卵は赤玉がいい!と高価でもそちらを選ぶという人もたくさんいる。
古い揚げ油は梅干を入れれば復活するなんて、お母さんの知恵袋的に
盲信している人も見たことがある。

こんな知識がすっぱり白黒つけられると、非常に助かる。
曖昧な健康情報に踊らされたり、怪しげなダイエットに飛びついたり
という危険も避けやすいのではないか。

じゃがいもやほうれん草の電子レンジでの加熱はアクが残る、という
知識はあったのだが、少量だけを急いで加熱するならそれもよし、と
メリットを説明されると納得できる。
健康を守ること、おいしく食べること、こだわるべきことを
ちゃんと整理できる。

これを食べてはいけない

2014-07-06 10:17:35 | 著者名 か行
郡司和夫 著

何も知らない人が読んだらかなりショックかもしれない。
とくに加工食品が好きだったり、ひたすら底値の食品を
探していたりすると、これらのものへの遭遇率はグッと
高まってしまう。

ただし、鵜呑みにしてあれもこれも避けるというのも現実的では
ないと思う。
山奥で自給自足でもしない限り無理があるし、よくよく知識と技術が
ない限り、栄養バランスを取るのも困難だ。考えすぎると精神的に
参ってしまうのではないか。

で、高校時代にさんざんこういう教育を受け、保育の学校でさらに
上書きをされ、生活クラブだのパルシステムだのとのお付き合いも
20年以上になる私は何も感じなかったかというと、そんなことはない。
改めてやっぱり怖いよねえ、気をつけようと心を新たにした次第だ。

我が家は貧しいわりにエンゲル係数が高い。かといってたいしたものを
出しているわけではない。
豚肉だの卵だの牛乳だのしいたけだの蓮根だの、それなりに安心できて
かつ美味しいと思うものを買い続けている結果である。
あと、加工肉とか冷凍食品はほとんど買わない。
ファストフードもほとんど食べない。
別に食べたくないからであるが、このあたりはかなり危険回避になって
いると思う。
しっかりしたポリシーなどないのだが、美味しくない食べたくないという
本能みたいなものは、それなりに育つのではないかな。
日常的に食べなければ。食べれば慣れるのだろう。

でも、忙しいときはコンビニおにぎりもカップ麺も食べたりするし、
一流店ばかりで外食することなど無理だから、穴だらけなんだけどね。
まあ、気を付けないよりはましです。
で、知識はあったほうがいい。
そういう意味では一度は見ておきたい一冊。

鬼神曲 考古探偵一法師全の不在

2014-07-05 10:49:31 | 著者名 あ行
化野燐 著

シリーズだ。『葬神記』の続きである。
前作で大活躍だった考古探偵はタイトルどおり不在。
考古学の学芸員・呉から、半ば強引に出雲の山奥へと
連れてこられた遺跡発掘アルバイトの古屋。

しかし、あるはずだった「鬼の頭蓋骨」は古墳から消失していた。
そして周辺に眼帯をした男が出没していた。
宿泊するセミナーハウスは、かつての学長の趣味で鬼をデザインした
奇妙なつくりになっていた。
そこで連続殺人の幕が切って落とされる。

殺人の犯人はともかくとして、事件の謎や怪しげな人物の正体などは
かなり早い時点で見当がつく。
しかし、古屋はまったく気づかない。
っていうか、彼がひたすらに振り回されるというのが話の主軸だ。

それにしては人がバタバタ死んでいくし、何やらしかけは大掛かりだし、
これは好みが分かれるかなあ。

相変わらず歴史のうんちくなどは面白くて、リズムに乗って読むには
なかなかよかった。