息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ギフト

2014-07-11 10:49:29 | 著者名 た行
日明恩(たちもり めぐみ)著

重い過去を抱え、レンタル店の夜勤をする須賀原は、
何に対しても心を動かすまいと決意していた。
しかし、ある日、ホラー映画の棚の前で涙を流す少年に出会う。

毎日店に来ては涙を流す少年・明生は死者が見えるのだといった。

死んだ時のままの姿で、なんとか話を聞いてもらおうとする死者。
明生が“見える”ことに気づくと、彼らはどこまでもつきまとうという。
その能力は両親を含む周囲の人を困惑させ、苦しめた。
明生は息を潜めてどうにか生きてきたのだ。

お互いを見つけたとき、須賀原と明生は協力し合い、
死者たちに手を貸そうとする。
死の記憶は途切れていたり、曖昧だったり、伝える術がなかったりする。
自分だけの思い込みに閉じこもっていることもある。
どうして欲しいのか、それを理解するのも難しい。
何人もの死者に出会い、その旅立ちを見送っていくうちに、
ふたりは自分自身が抱える問題にも向き合うことになる。

須賀原は刑事だった。仕事熱心で真面目に働いていたことが
あるとき仇となり、中学生を死なせてしまった。
彼は警察官の息子であり、「息子の死を忘れるな」という
父親の言葉が須賀原を縛り付けた。

明生の手を借り、中学生・正義とコミュニケーションをとる須賀原。
彼は迷い、父への思いから自分の死の場面を延々と繰り返していた。
正義と両親の心が通いあったとき、須賀原の心も開放される。
そしてそれと時を同じくして、明生も自分の道を進む決意をしていた。

だれも悪人などいないのに、苦しむ姿が切ない。
こんなふうに誰かが解きほぐしてくれればどんなにいいかと思う。
しかし、その役割はあまりに重く、明生はずっとあえいでいたのだ。

人の心の描写は素晴らしいと思う。とくに自分自身を認められない圭子の
心理は、人間の心の虚しさというかバカバカしさをうまく表現している。