風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

朝日新聞の弁明

2014-08-08 23:45:45 | 時事放談
 朝日新聞が5~6両日にわたって朝刊で慰安婦問題の特集を組み、かつて報道の一部に誤報があったことを認めたそうです。そのことを教えてくれた知人は、さすがに朝日だ、Webからはすぐに消したよ、とぼやいていて、確かに目立つところにはもはや見当たりませんでしたので、検索してひと通り読んでみました。
 朝鮮人女性を強制連行したと証言した自称・元山口県労務報国会下関支部動員部長・吉田清治氏の済州島での「慰安婦狩り」証言を「虚偽」として取り消したこと、また、(約20万の朝鮮人女性が労務動員されたとされる)「女子勤労挺身隊」と「慰安婦」(秦郁彦氏は2万人前後と推計)を混同していたことを「誤用」と認めたことはわかりましたが、どうも言い訳がましい。おまけに「他紙の報道は」という一節を設けて、国立国会図書館に所蔵されているマイクロフィルムや記事を検索できる各社のデータベースなどを参考にして(などと、大変な労力ですが、ある意味で朝日新聞の執念を感じさせます)、他紙(毎日、読売、産経の各紙)も、かつては吉田証言を取り上げたり、慰安婦と挺身隊を混同したりした例もみられたなどと、ご丁寧にも指摘していて、お互いさま、あるいは同罪だと言わんばかりの口ぶりです。そして最後に、肝心の「日韓関係なぜこじれたか」と題する一節では、主に政府間交渉の事実関係を淡々と記すのみで、火を付け、火に油を注ぎ続けた自らの関与を詫びる言葉はひとつもありませんでした。
 これによって「“慰安婦強制連行説”は完全かつ最終的に崩壊した。残るのは『戦地にも遊郭があった』という単純な事実だけである」(藤岡信勝氏)ということになります(そうは言っても、当時としては単純な事実であっても、人権意識が高まった昨今、単純とは言い切れませんが、次元が異なる事象となることは間違いありません)。しかし、それでもなお朝日新聞は、この特集記事で、杉浦信之編集担当の「慰安婦問題の本質 直視を」と題する論説を掲載し、「私たちはこれからも変わらない姿勢でこの問題を報じ続けていきます」と結びました。いやはや懲りない面々といったところでしょうか。
 この朝日新聞の弁明に対する韓国の反応が気になるところですが、「おわび」や「訂正」の見出しひとつなく自己正当化に終始した朝日新聞に呼応するかのように、韓国各紙は、「朝日新聞が誤りを認めた部分を引用して報道しつつも、誤報そのものは問題視せず、むしろ、『朝日新聞、安倍(首相)に反撃』(朝鮮日報)などと、一連の釈明や主張を代弁したり肯定的に評価したりする報道が目立った」(産経Web)そうです。朝鮮日報に至っては、「安倍首相と産経新聞など極右メディアは朝日新聞を標的にし、『慰安婦=朝日新聞の捏造説』まで公然と流布させている」とし、「朝日が誤報をした事実よりも、誤報を追及し続けてきた産経新聞などを逆に批判した」(産経Web)そうです。日頃から朝日新聞を日本の良識と持ち上げる韓国だけのことはあります。
 疑問が指摘されながら20年以上にわたって放置してきた朝日新聞の責任はやはり重いと言わざるを得ません。新聞の誤報が外交問題に発展したのは、別にこれが始めてのことではなく、私が学生の頃にも、第一次教科書問題で、事実でもないのに、日本軍が華北に「侵略」ではなく「進出」に書換えられたと報道され、時の宮沢官房長官が中国に謝罪したことがありました。私はたまたま今は亡き保守系雑誌「諸君!」の渡部昇一論文を読んで事の次第を知り、朝日新聞への不信はまさにここに始まりました。そうは言っても、朝日新聞に勤める人は個人的には素晴らしい人が多いと思っており、中央官庁にしても朝日新聞にしても、個人としては良いのに組織になると途端にダメになるのはどうしたことだろうと不思議に思います。実際に、子供の頃、「天声人語」を担当し、「日本のマスコミ史上、最高の知性派の一人と言われた」(Wikipedia)深代惇郎氏がいましたし(しかし急逝)、学生時代には、「週刊文春」誌上にペンネーム「風」で書評を連載していた百目鬼恭三郎氏のような方もいて、敬愛していました。博覧強記と毒舌をもって恐れられ、敵も多かったようで、実は「半ば喧嘩のような形での退社」で「百目鬼の立ち位置は朝日新聞社における傍流であり異端だったと言える」とWikipediaは伝えていますが。最近でも、船橋洋一氏は朝日新聞主筆まで務められました。
 最後に、新聞報道の影響力という意味で、産経新聞政治部編集委員の阿比留瑠比氏が、「それにしても慰安婦問題を考えるとき、吉田証言に食いつき、これを利用して日本たたきを展開した識者の多さに気が遠くなる」と指摘された記事の該当部分を引用しておきます。

(引用)吉田氏は、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の河野談話作成時には政府のヒアリング(聞き取り)対象となったし、国連人権委員会(当時)に提出され、慰安婦を「性奴隷」と認定した8年の「クマラスワミ報告」でも引用されている。
 日本に批判的なオーストラリア人ジャーナリスト、ジョージ・ヒックスの事実誤認の多い著書「慰安婦」でも、参考文献として吉田氏の本が記載されている。4年7月の日本弁護士連合会人権部会報告でも吉田氏の著書が引用された。
 韓国政府も、同年7月の「日帝下軍隊慰安婦実態調査中間報告書」で吉田氏の著書を強制連行の証拠として採用しているのである。
 社民党の福島瑞穂前党首らとともに、韓国で対日賠償訴訟の原告となる元慰安婦を募集し、代理人を務めた高木健一弁護士に至ってはこれとは別の裁判で吉田氏を2回、証人として招いて証言させた。
 民主党の仙谷由人元官房長官の大学時代からの友人でもある高木氏は著書「従軍慰安婦と戦後補償」(4年7月刊)で、吉田氏の法廷証言を26ページにわたって紹介している。その中で高木氏は、こう吉田証言を称賛している。
 「その証言は歴史的にも非常に大きな意義がある」
 「戦時における日本の社会全体がいかに正義と不正義の分別さえ全くできなくなっていたか、その異常な状況を証明して余りある」
 朝日をはじめ、当時の言論空間がいかに事実と虚構の分別さえ全くできなくなっていたかが分かる。
 当の吉田氏は8年の週刊新潮(5月2・9日合併号)のインタビューでこう開き直っていた。
 「事実を隠し、自分の主張を混ぜて書くなんていうのは、新聞だってやっている」
 吉田氏は自身の創作話に裏付けもとらずに飛びつき、論調が合うからと恣意的に垂れ流した新聞報道などのあり方を、実は冷めた目で見ていたのかもしれない。(引用おわり) 
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