風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

困ったときのパンダ外交

2023-11-19 11:53:28 | 時事放談

 久しぶりに訪米した習近平氏がバイデン大統領および岸田首相と会談した。

 中国共産党支持派と反対派のデモが吹き荒れる(などと書きながら、実際にどの程度なのか報道からは分からないが)サンフランシスコのダウンタウンを避けて郊外で行われた米中首脳会談については、「滞っていた国防当局や軍同士の対話再開で合意した。偶発的な軍事衝突を防ぐ関係安定へ一歩を踏み出したが、台湾や貿易を巡る対立は残ったまま」(一昨日の日経一面)で、さしたる成果はなかった。バイデン大統領としては、テーブルの下ではお互いに足蹴にしながら、テーブルの上では笑顔で握手して友好を演出した構図であろうか。アメリカは政治の季節に入って、足を引っ張られないよう抑制気味で、最低限の目的を達する想定通りの内容なのだろう。

 いや、AP通信によると、習近平氏はパンダを「中米両国民の友好の使者」と表現し、「カリフォルニアの人々の期待に応え、友好関係を深めるために最善を尽くす」と述べたそうだから、世間は嬉しいサプライズと(一部であっても)受け止めたかもしれない(笑)。習近平氏がバイデン大統領と握手した際の作り笑いそのままに、(ぎこちない)微笑み外交ならぬ、困ったときのパンダ外交だ。しかし、スミソニアン国立動物園からパンダを予定より早く引き揚げる嫌がらせをした後の発言だから、マイナスがゼロに戻っただけのことだ。米国で乱用が社会問題化している医療用麻薬フェンタニルにしても、その原料である化学物質が中国で製造されメキシコで合成されてアメリカに流入する、いわば現代版アヘン戦争を放置しているのか煽っているのかしらないが、その嫌がらせをやめるだけのことだろう。軍高官の対話を拒絶したのは中国の方で、それを元に戻すだけのことだ。

 ところが、中国・国営新華社通信は、「バイデン米大統領との会談や米企業家らとの交流を通じ、対米関係の安定化と外資の呼び込みを二つの大きな『成果』として国内向けにアピール」(昨日の時事)したそうだ。米企業家らとの夕食会では、40分近く続いた習氏の演説にはたびたび拍手が上がり、米経済界の重鎮ら約400人から「熱烈」な歓迎を受けたと伝え、バイデン氏が習氏の青年時代の写真に「現在と変わらない」とコメントしたり、習氏が乗る中国車「紅旗」を褒めそやしたりした場面を大きく報道して、厚遇ぶりを強調したそうだ(同)。アメリカのつれない仕打ちに嫌がらせで応じて、その嫌がらせをやめるだけなのに友好を演出して「やっている感」を出しているだけのことだ。

 こうして見ると、かねて景気低迷が伝えられ、バブル崩壊後の「日本化」か? いやそうではない、日本以上に酷い! などと危惧される中国の、夏休みを兼ねた秘密の北戴河会議で、長老の一人から、「これ以上、混乱させてはいけない」と従来にない強い口調の諫言を受けた習近平氏が、別の場で、「(鄧小平、江沢民、胡錦濤という)過去三代が残した問題が、全て(自分に)のしかかって」「(その処理のため、就任してから)10年も頑張ってきた。だが問題は片付かない。これは、私のせいだというのか?」と側近に不満をぶちまけたという、日経・中沢克二氏による舞台裏の解説が真実味を帯びる。

 バイデン政権になって、「(米中)関係を管理する(マネージする)」と言われたのを、これはまさに私が勤務する会社の合弁子会社に対する形容そのものだと、妙に感心したものだ。暴走して問題を起こさない程度に行動をある幅に納まるようにコントロールするもので、バイデン政権は(道を外さない)ガードレールという表現も使った。アメリカは、中国とは価値観や理念が絶望的に相容れないから、そもそも多くを期待しない。それでも、ウクライナ侵略に踏み切ったプーチンのように、独裁権力が昂じて正確な情報が耳に届かない事態を懸念して、せめて習近平氏には直接会って、正確な情報をインプットする必要を感じていたようだ。もっと言うなら、そもそも国家における政治の優越やメディアに対する統制など、基本的な価値観が異なるので、伝える情報がアメリカが望む通りに受け止められるとは限らない認知バイアスの問題もあり得るのだが、そこまでは問うまい。

 日中首脳会談では、再び「戦略的互恵関係」(=懸案で意見が合わなくても決定的な対立を回避し相互利益を目指すオトナの冷めた関係)に言及し、「対話の継続へ前進する姿勢を打ち出した」(昨日の日経一面)そうだ。もってまわった言い方だが、かねて日中関係は米中関係の従属変数と言われた通りに、日本にソッポ向かれても困る中国の実情を表しているのだろう。故・安倍首相(当時)と握手した時の習近平氏の仏頂面は忘れられないが、岸田首相と握手するときの作り笑いもまた忘れられない。分かり易い国である。

 先行きに明るさは見えない。

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