風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

JALの新社長

2024-01-21 15:33:49 | ビジネスパーソンとして

 日本航空(JAL)が発表した4月1日付の新社長人事が話題だ。社長になるのは、女性、しかもCA出身者で初めてで、さらに2002年に経営統合した日本エアシステム(JAS)出身者としても初めてという、初めてづくしだそうだ。

 早速BBCは、日本政府は「2020年までに大手企業の女性役員比率を3割以上にする目標を掲げていたが、達成できず、期限を2030年に延長している」「2025年までに女性役員を最低1人選任するよう努めるべきだと提言している」、また、「日本の女性役員比率は2021年に13.2%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も低い。日本の女性役員の少なさについてOECDは2019年の時点から、『人材の致命的な配分ミス』があると指摘している」と書き添えた。毎度お馴染みの日本批判である。確かに、振り返れば画期的な出来事だが、今さらそんなに持て囃さないで欲しいという思いもある。

 新社長となる鳥取三津子さんは1985年の短大卒で、男女雇用機会均等法施行の前の年にあたる。当時、短大卒の女性は事務職として採用されると、男性社員の代わりにコピーを取ったり、当時はパワポなる便利なソフトがなかったものだから、OHPを使ったプレゼンのために透明材料のOHPシートに色付きセロファンを貼り付けたり、といった補助的な仕事をする、ある意味で(当時の世相に皮肉を込めて)優雅な、また、午前10時と午後3時に部員にお茶をいれて配る「お茶当番」をしたりという、今では考えられない長閑な時代だった。スチュワーデスと呼ばれたCAは、そんな中では女性らしさを発揮できるからだろうか、才色兼備の女性憧れの花形職業と見做されていた。TBSのドラマ『スチュワーデス物語』(1983年)や、古くは同じTBS系の『アテンション・プリーズ』(1970年)がスチュワーデス人気を無闇に盛り立てた側面もある。実際には立ちっ放しで時差ボケがあり我儘な乗客の御用聞きもする肉体労働者だと卑下する声もあったが、日本のフラッグシップとも言うべきJALのCAはプライドが高く、(あくまで相対的に)高齢化していたのに対して、全日空(ANA)のCAは若くて対応が良いと評判で、私の周囲で海外出張が多いFrequent FlyerはANA派に切り替えるというように、飛行機会社の人気を前線で支える存在だった。

 その意味でも、今回の人事発表は、なかなか変わらないニッポン(ガイジンから見ての日本という意味でカタカナ書きにした)が変わりつつある象徴と言えそうだ。当時の世相から想像するに、鳥取さんは優秀な女性だったに違いない。かつてなら、いくら優秀でもある年齢を過ぎれば肩叩きにあったことだろう。しかし、その後は普通に総合職としての女性採用が、また管理職への女性登用が進んできたことだろう。そのため、CAで初というような言われ方は、今後はもうなくなることだろう。

 その後、JALは、CAのプライドが高く、高齢化していたという噂と関係があるかどうか知らないが、2010年に経営破綻し、「経営の神様」稲盛和夫さんが経営に参画して改革に辣腕を振るわれ、再生した。その点からも、今回の人事は順当だと評する声がある。

 当時、JALの役員は東大出が多く、稲盛さん曰く、「私のような地方大出身のもともとは中小企業の社長のようなタイプとは全く違います。自分たちは最高の高等教育機関で経営学を学んだと自負していて、『人として何が大事か』というような私の哲学をすんなりとは受け入れません」(JAL再生過程における社内文書での言葉)という状況だったそうだ。稲盛さんが植え付けた経営スタイルは「現場主義」で、まず整備の現場を歩んできた大西賢氏を社長に指名し(自らは会長に就任)、その後任にパイロット出身の植木義晴氏、次いで現社長で整備畑出身の赤坂祐二氏、そして今回、CA出身の鳥取さんへと引き継がれる。

 逆に、経営企画や子会社経営の経験がないことを不安視する声もある。JAL関係者によれば、社長の有力候補としては他に、営業企画のエースでグループCFOの斎藤祐二取締役専務執行役員(59)と、総務本部長の青木紀将常務執行役員(59)がいたそうで、今後は、現社長の赤坂氏が会長として経営に目配りし、斎藤氏や青木氏が実務をサポートする体制を予想する声もある。今どき、創業者の社長でもない限り、経営の隅から隅まで知悉する者などいないだろう。そうした不安を慮ってか、赤坂現社長は、「これからの経営は、いろんな人達の力をいかに引き出せるか、にかかっているのではないかと思います。事業が多様化しているなかで、これからはチーム経営が重要だと思います。そういう意味では長年安全・サービスを担当していた鳥取さんはふさわしい人物だと考えています」と説明された。

 鳥取さんが入社した年には、JAL123便が御巣鷹の尾根に墜落し、520人が死亡するという痛ましい事故があった。そして、今月2日には、JAL516便が羽田空港で海上保安庁の航空機と衝突し、海上保安庁側は搭乗者6人中5人が死亡したが、JAL側は乗客・乗員合わせて379人が全員、奇跡的に脱出する事故があった。JAL所属の機体が起こした全損事故はJAL123便以来のことで、何やら因縁めく。JAL516便のCAの対応が評価されているタイミングで鳥取さんの社長就任を公にするのは巧妙だと舌を巻く関係者の声もある。

 今なお大企業でも、同じ程度に優秀なら女性を引き上げろ、という不文律がある。それを逆差別だと受け止める男性もいるかも知れない。こうした不毛な「女性だから」という議論は、そろそろいい加減に止めにしたいものだ。だから、鳥取さんの次の発言は頼もしい。その自然体のご活躍を期待したい。

「安全運航は引き続き揺るがぬ信念をもって、取り組んでいきたいです。また、JALは社会の役にたっている、献身的で、楽しそうな会社だなと思ってもらえるように取り組んでまいります。心から働きたくなる、そして一人ひとりの能力が発揮できる場となれば、必ずお客様に選ばれるエアライングループになると思います。あまり女性だからとは思っておらず、自分らしくやっていきたいです」

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