風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

オバマ大統領の功罪

2016-11-22 01:37:30 | 時事放談
 今日の産経Webに阿比留瑠比氏の興味深いコラムが掲載されていた。「立ち話でおしまい、日米首脳 安倍晋三首相にとってオバマ氏とは何だったのか」という、長ったらしいタイトルだが、今日、訪問先のペルーで、日・米首脳としては最後となるはずの安倍首相とオバマ大統領との逢瀬は、ごく短時間の立ち話で終わってしまったことを受けて、これまでの両首脳の関係を振り返ったものだ。
 そもそも安倍首相の政治家としての人となりについては、就任前から日米双方の左派・リベラル勢力によって「危険なナショナリスト」「歴史修正主義者」などといったレッテルが刷り込まれ、2013年2月の初訪米の際、オバマ大統領主催の昼食会では、安倍首相を含む両国要人がワイングラスを傾ける中、オバマ大統領のテーブルの上にはミネラルウオーターが1本置かれているだけだったという。安倍首相も「初めの頃、オバマ氏は私を腫れ物に触るように扱っていた」と周囲に振り返ったそうだ。そしてこの年の12月、安倍首相が靖国神社に参拝すると、米側は大使館を通して「失望」を表明し、さらに日米関係は冷え込んでしまう。
 その後、安倍首相は反転攻勢に出る。国際会議や各国首脳との会談などあらゆる機会を捉えて、自由・人権・法の支配など民主主義の諸価値を尊重していることを訴え、首脳会談を拒否している中・韓に対しても「対話の窓」は常に開かれていることを強調した。そして、ついにオバマ大統領が安倍首相に心を許す瞬間が訪れる。2014年6月、ブリュッセルで行われたG7(先進7カ国首脳会議)で、ウクライナ問題を引き起こしたロシアへの制裁方針をめぐって首脳間でオバマ大統領が孤立し、オランド仏大統領と激しい口論になったとき、安倍首相が助け舟を出し、会議を軟着陸させたという。そのとき安倍首相は、イタリアのレンツィ首相にハイタッチを求められ、オバマ大統領に初めてハグされたという。
 その後の安倍政権は、特定秘密保護法や安保関連法を成立させるなど幾多の困難を乗り越え、米国をも納得させる戦後70年談話を成功裡に演出するなど、日米の絆を強化し、ついにオバマ大統領のヒロシマ訪問に繋げたのだった(もっともこれはオバマ大統領のレガシーへの執心と言えなくもない)。
 そんなオバマ大統領については、以前から、ビジネスライクで、ごく身の回りにも、また世界の首脳にも、「お友達がいない」と言われてきた。安倍首相とオバマ大統領の最後の接触が立ち話に終わったのも、別段、驚くことではないのかも知れない。
 前置きが長くなったが、ニューズウィーク日本版11-22号は、トランプ・ブームがここまで燃え広がった真の原因はオバマ大統領にあるとの記事を掲載している。「国家の構造に人種的階層が組み込まれているアメリカで、黒人のオバマが大統領に選ばれたのは革命的な出来事」(同)で、「拡大する多様性にも国際主義にも馴染めない数多くの白人有権者は衝撃を受けた」(同)という。「オバマの大統領選出は『チェンジ』どころか社会構造の逆転であり、大不況が惹き起こした収入や生活水準の低下と相俟って、白人中心社会の終わりを告げているように見え」(同)、そんな「オバマの出現と非白人が多数派となる将来を前に、人種的ストレスを感じる白人層は防御行動に走っているのではないか」(同)というわけだ。そして「白人労働者階級が置かれている経済的な苦境」(同)もあり、「彼らは『アメリカを再び偉大な国に』というトランプのスローガンに、『白人労働者中心の国の復活』という夢を重ねている」(同)のだ、と。
 確かに、皮肉なことだが、オバマ政権下で人種間の分断が広がったのは事実かも知れない。
 また、ちょっと古くなるが、ニューズウィーク日本版9-20号は、オバマ大統領のアジア重視は地政学的に理にかなうが、有権者の関心が薄いのが弱点だと喝破した。「保守的なアメリカの有権者にとって、アジアとは大手スーパーに並ぶ安い商品の供給元でしかないが、イスラム過激主義は生死にかかわる脅威」(同)であり、一方「リベラルな有権者にとって、アジアはアメリカの産業と組合に打撃を与える抜け目がない商売人」(同)であり、オバマ大統領の後継者候補(トランプ氏)はそんな国民のイメージに迎合しているというわけだ。米国における反知性主義の台頭と言われるのも、このあたりを指すのだろう。
 かつてアーサー・シュレジンジャー博士は、米国政治において「公の力に頼る時期」と「民間の活力を求める時期」が繰り返し、それが一巡するのに30年程度かかると言った。「公の力に頼る」とは「大きな政府を求める」ことで民主党に有利に働き、「民間の活力重視」は共和党の主張であって同党が権力を握りやすいということらしい。1901年にセオドア・ルーズベルト、1933年にフランクリン・ルーズベルト、1961年にジョン・ケネディと続き、1993年にビル・クリントンの大統領就任を予測したまでは良かった。次の民主党大統領は2020年のはずだったが、早くも民主党は2001年に共和党ブッシュに大統領職を譲り、しかし2009年には民主党オバマが引っくり返し、更に2017年には共和党トランプがまた引っくり返す。クリントン以後、ここ20年来、二期八年で交代するのは、シュレジンジャー博士の予測が外れたと言うよりも、博士自身、技術革新によりサイクルが早まるかも知れないと語っていたように、その通りに急速に早まっている(二倍に!?)のか、あるいは米国の民主主義が健全なサイクルから外れて変調を来しているのか・・・後者のような気がしないでもない。
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