風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

そして韓国では

2017-05-14 10:35:11 | 時事放談
 9日の韓国大統領選挙では、下馬評通り「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選し、9年ぶりに左派政権が誕生した。フランス大統領選挙に引き続きブログに書こうと思い立ちながら、つい筆が鈍ってしまい、今後を占う報道で盛り上がって却って面倒臭さが増して、眠いから明日でいいや・・・を繰り返して今日になってしまった。
 関心が乏しかった理由はいろいろあるが、何と言っても朴槿恵・前大統領の弾劾・罷免という異常事態を受けて実施された大統領選であり、どう転んでも「保守から進歩へ」という流れの中で、日本にとっては嬉しくない「左派」の勝利が見えていたこと、ちょっとはマシと思われていた「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏がテレビ討論での失態によって後退し、保守・中道は結局、候補者絞り込みが出来ないまま、文氏の独走を許してしまったこと、政策論争でも、アメリカ大統領選挙で当時のトランプ氏が「反オバマ」に凝り固まって目に余ったのに似て、「反朴」のオンパレードでうんざりし、とりわけ北朝鮮情勢が緊迫するにも係らず宥和政策の「左派」優位が動かず、韓国民には北への備えがあって慣れているとはいえ(朝鮮戦争は停戦状態なのだから仕方ないが)、「日本は騒ぎすぎる。大げさだ」と言われる始末で、北朝鮮の脅威が争点にならないもどかしさがあったこと等、一言で言えば日本をはじめ国際社会をよそに韓国民だけが盛り上がる内向き選挙に終始したことによるのだろうと思う。
 大統領選に出馬した候補は15人(2人は途中棄権)にものぼり、さながら東京都知事選のような賑わいで、主な政党の代表者5人が争ったために票が割れたようだ。それでも文氏の得票率は事前の支持率に近い41.08%、他方、安氏は21.41%で、保守系「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏の24.03%にも後塵を拝した。1位と2位の票差(557万票差)は1987年の大統領直接選挙実施以来、歴代最多だそうで、安氏も中道とは言え中道左派なので、文氏と安氏を合わせると左派が62%を超える圧倒的な得票となったのは「反朴」の世論の賜物だろう。
 最新のニューズウィーク日本版5・16号は、意外なことにスモッグ被害も重大な争点になっていると伝えている。首都ソウルの空気は北京並みに悪化し、多国籍企業や欧米の大使館がソウルへの駐在員を確保するのに苦労するほどだと言う。大気汚染の原因は、中国北東部の工場の煤煙やゴビ砂漠から飛来する黄砂のほか、韓国で続く石炭火力発電所の建設が拍車をかけているようだ。また、「ヘル朝鮮」なる造語が漏れ伝っているように、韓国の暮らしにくさ、とりわけ若年層が痛感する社会の閉塞感が政治問題化していると解説する。「(前略)韓国の若者にとって社会の現状は絶望的だ。過酷な受験戦争を勝ち抜くために子供時代から学習塾や予備校で猛勉強し、首尾よく有名大学に入学できても、卒業後は残業や休日出勤だらけの会社勤めの生活に追われる。その一方で物価は高く、年収に対する借金の割合は平均170%に上る。これでは晩婚化や少子化が進み、外国で働くことを望む国民が増えるのも不思議ではない(後略)」 そして最大の争点は汚職であり、財閥改革の問題だと言う。前途有望な若い人たちにとっては気の毒な話で、こうした韓国社会の現状に不満を抱く若い人たちが、朴槿恵・前大統領を弾劾に追い込み、そのまま文氏を支持したであろうことは想像に難くない(が、祖国愛や反日感情とともに外国に出て行って従軍慰安婦像をばら撒かれては堪ったものではないのだが・・・)。
 そんな課題山積の韓国の内輪の事情を理解しつつも、私たち日本人(や、さらに国際社会)が注目するのは、(反日も含む)対外政策、とりわけ対北朝鮮政策である(今朝も、大統領選挙を待っていたかのように北朝鮮は新型と見られる弾道ミサイルを発射したようだ)。文氏は10日の大統領就任演説で「必要であれば、ワシントン、北京、東京に行く。条件が整えば平壌にも行く」と語った。「反日・反米・親中・従北」などとレッテルを貼られているが、一応、優先順位はアメリカであり、現実主義的なところが垣間見えるが、次いで日本ではなく中国というのは、やっぱり事大主義かと溜息が出るし、さらに北朝鮮とも対話することを厭わないのは、かつて金大中・盧武鉉の左派政権(1998~2008年)が行った対北宥和の「太陽政策」を想い出させ、経済協力が北朝鮮の核ミサイル開発を助長した悪夢を思い出させて憂鬱になる(もっとも、その後の李明博・朴槿恵の保守政権(2008年~)でも北朝鮮は核ミサイル開発を継続したのだったが)。
 前回ブログに続いて下世話な話だが・・・文氏の両親は朝鮮戦争の時に、避難民として北から撤収する最後の米軍艦艇に乗り込んで南へと逃げてきた経験を持つらしい。その後、1953年、5人兄弟姉妹の長男として巨済島で生まれ、とても貧しい環境で苦学して奨学生として大学に進学し、学生時代は朴正煕元大統領の独裁に反対する学生運動の先頭に立って逮捕されたらしい。朴家とは浅からぬ因縁のようだ。そして大学を除籍になって軍に強制徴集されると、特殊任務を行う兵士(特戦士)として徴兵の義務を果たし(因みに文氏の支持者らは「特戦士出身の文大統領が親北で安保を危険にするはずがない」と信頼しているらしい)、除隊後は学生運動の前歴から就職が難しかったために司法試験の勉強を始め、合格してからも学生運動の前歴が災いして希望した判事任用にならず、釜山で故・廬武鉉氏と共に労働問題を扱う人権弁護士になって、80~90年代は釜山の民主化運動をリードしたという。そんな縁もあって廬武鉉大統領の時に秘書室長を務めたのだった。苦労人に見受けられるし、所謂筋金入りにも見え、こうした北出身の方にありがちなように、今、米・中を中心に進められる北朝鮮包囲網に対して、韓国が主導権を握りたい思惑があるようだが、日本としては、くれぐれも先走らず国際社会の結束を崩さないよう誘導していく必要があるのだろう。
 南北に分かれた言わば血を分けた兄弟という特殊事情は理解しなくもないが、韓国に対しては、国の在り様として根本的に不信感を払拭することがどうしても出来ない。以前にも登場してもらったルトワック氏に至っては、新著の前書きで、韓国について極めて辛辣に次のように言い放っている。アメリカ人の戦略家の目にはそこまで映るのかと、やや驚きを禁じ得ないが、まあ、奮起を促したいと思う。

(引用)
 日本にとってほぼ利益のない朝鮮半島において、北朝鮮が、暴力的な独裁制でありながら、使用可能な核兵力まで獲得しつつある一方で、韓国は、約5000万の人口規模で世界第11位の経済規模を誇りながら、小国としての務めさえ果たしていない。
 国家の「権力」というのは、結局のところ、集団としての結束力を掛け算したものであるが、韓国はこれを欠いている。アメリカが長年にわたって軍の指揮権の譲渡を提案しているのに、韓国が継続的に拒否しているのも、その証しだ。
(引用おわり)

 次は19日のイラン大統領選挙だ。二期目を目指す穏健派の現職ロウハニ師に対して、反米・保守強硬派の候補ライシ前検事総長を、なんと最高指導者ハメネイ師が推している・・・というのが気になるところだ。朝鮮半島といい、中東といい、液状化しかねない、なんとも不安定な情勢だ。
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2 コメント

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韓国も日本も (あんびばれんと)
2017-05-19 08:53:42
日本は先進国の中で特に自殺率が高いとの記事を見ました。その記事では韓国が2位、日本が9位となっていて、韓国の自殺率の高さも突出しています。貴兄のブログから、両国とも特に若い年代(20‐30才代)の閉塞感や、高齢者層(70才代~)の活躍の場の無さが原因なのではないかと推測します。

最近思うことは、誰もが居場所と役割を持ち、かつ、持っている能力を存分に発揮できる社会を実現するにはどうしたらよいのか、ということです。そういう社会になれば、自殺は減り、生産性は上がり、幸福度も上がるのではないかと思います。それには、企業や行政の短期志向・サイロ志向のマインドを変え、同時に市民の利己的なマインドも変え、20年、30年、100年先の理想とする世界の実現を構想し、実現するという信念を持つことが必要なのではないかと思っています。
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韓国は韓国 (風来庵主人)
2017-05-19 21:25:38
日本で自殺が多いのはその通りですが、中高年に多かったのではなかったでしょうか。それはそれとして、若年層に閉塞感があるのは事実でしょうが、韓国と日本とでは事情がそれぞれ異なるように思います。誰もが居場所と役割をもち、かつ持っている能力を存分に発揮できる社会は理想です。が、多分、一人一人の能力にはそれほど違いがなくて、だから同じような居場所を求めて競争せざるを得ないのが現実ではないでしょうか。その競争が社会に活力をもたらす側面も評価すべきです(それを評価しなかったのが共産主義でした)。問題は、昔から言われているように、単線ではなくて複線、つまりいろいろな方面に価値を認めることではないでしょうか。韓国みたいに役人か財閥企業に殺到(昔の科挙みたいに)するしかない社会では、そこで敗れた人たちには居場所がなくなってしまいますから・・・。
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