風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

北朝鮮という難題(上)

2017-06-03 22:43:43 | 時事放談
 「核ミサイル実験に成功 正確に目標へ誘導」
 「核、率先不使用を宣言」
 「解説 意外に早い小型化」
 「“実戦段階”にはいる 米の見方 日本などへの影響重視」
 「危険な実験に強く抗議 外務省の非公式見解」
 これらは、およそ半世紀前の1966年10月28日付、産経新聞朝刊1面記事の見出しだそうだ。主役は従い北朝鮮ではなくて中国である。北京放送を通じ「自国の国土において誘導ミサイル核兵器の実験に成功した。誘導ミサイルの飛行は正常であった。核弾頭は予定の距離で正確に目標に命中し、核爆発を実現した。実験の成功はわが国の科学技術と国防力が毛沢東思想の輝かしい光を浴びて、さらに早いテンポで発展したことを示している」とも発表・・・まるでデジャヴだ。
 この10年もの間、私たちは北朝鮮に時間を与え過ぎてしまった。そのツケを今、払わされようとしている。米シンクタンク・核脅威削減評議会(NTI)によると、北朝鮮は、金日成主席時代の1984~94年に15回、金正日総書記体制下の2011年12月までは16回のミサイル発射実験を実施したが、金正恩体制下では僅か5年余りで既に70回を超え、今年に入ってからでも、まだ半年経たないのに既に9回(12発)だ。この事実は重い。
 これまで北朝鮮は、防衛大学校の倉田秀也教授の言葉を借りれば、「『核先制不使用』を宣言して、核戦争を挑む意思がないことを明らかにしつつ、その核戦力を専ら米国の核による第1撃を抑止する第2撃として使用する核態勢」をとるものであり、その核戦力は「核戦争を戦い抜く能力ではなく、人口稠密な大都市に着弾できるなど、米国に第1撃を躊躇わせる最小限のもの」でよいので、こうした核抑止態勢は一般に「最小限抑止」と呼ばれてきた。ところが3月6日の中距離弾道ミサイル「スカッドER」連射以来、北朝鮮が目指す抑止態勢は「最小限抑止」にとどまらないことが装備面から明らかになった。朝鮮中央通信が、「スカッドER」(射程約1000キロ)連射は朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊による「日本駐屯米帝侵略軍基地(複数)」への攻撃を念頭に置いたことを明らかにしているように、「スカッドER」が東海岸から発射された場合、佐世保や岩国など、朝鮮戦争で国連軍派兵の拠点となった基地を収めるのは、昨年成功させた「ムスダン」(射程約4000キロ)がアンダーセン米空軍基地を擁するグアム島を射程に収めるのと同様で、これらは「もはや米国に第1撃を躊躇わせる第2撃のための弾道ミサイルではなく、朝鮮半島で戦端が開かれたとき、米軍による来援や、空爆のため在日米軍、アンダーセン米空軍基地の使用を阻止するための装備と考えなければならない」という。こうした軍事作戦に組み込まれた核ミサイルは、「最小限抑止」とは異なり、第1撃を受ける以前に使用される可能性をも孕むもので、「スカッドER」連射を報じた朝鮮中央通信が、「実験」ではなく一貫して「訓練」と呼び、「核戦弾頭取扱い順序と迅速な作戦遂行能力を判定・検閲するために進行した」と報じたことも、この文脈から理解されるべきだと、倉田教授は言う。久しく米中及び日韓が手を拱いている間に、北朝鮮の脅威が新たなレベルにあがったと安倍首相が非難し焦るのも、このあたりにあるのだろう。
 その後も、北朝鮮の挑発は止まらず、5月9日の韓国大統領選挙が北朝鮮の期待する通りの結果に終ったのを見届けると、今週まで三週続けてミサイルを発射し、どうやら上の見立てを裏付ける。
 先ず5月14日の弾道ミサイルは新型中長距離の「火星12」で、北朝鮮の朝鮮中央通信によれば、北西部の亀城付近から発射され日本海に落下した。「周辺国の安全を考慮して最大高角で発射した」として、高度は2,111.5キロに達し、787キロ飛行した後、公海上の目標水域に正確に着弾して、大気圏再突入時の弾頭部の誘導性能や起爆システムの正確性が実証されたと主張している。日本政府もほぼ垂直に近い高角度で飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げたと見ており、この場合、落下速度が速く迎撃が難しいとされ、30~45度の通常角度で発射した場合は4000~5000キロの射程を有するとの分析もある。この日は、北京で開催された経済圏構想「一帯一路」の国際会議初日に当たり、対北圧力を強めるトランプ米政権に加え、中韓を牽制する狙いもあると言われた。
 続いて21日の弾道ミサイルは、2月に発射された「北極星2」(米軍呼称「KN15」)の性能をさらに高めたとみられ、約500キロ飛行して日本海に落下した。発射地点は4月29日に失敗したときの平安南道北倉付近らしい。「北極星2」は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1」(米軍呼称「KN11」)を地上配備型に改良したもので、液体燃料に比べ発射準備に時間がかからない固体燃料を導入しており、道路以外も走行できる無限軌道型の移動式発射台に搭載して、どこからでも発射できるため、発射の兆候を捉えにくい。また弾頭部のコントロールの正確さも弾頭部に備えたカメラ映像で確認され、「戦闘環境での適応の可能性が十分に検証された」といい、実験に立ち会った金正恩委員長は、「北極星2」型の実戦配備を承認、量産化を指示したという。射程2千キロ以上とされ、射程内にある日本全土への脅威がさらに高まった。このミサイル発射は、既に朝鮮半島付近に展開中の別の空母カール・ビンソンと合流するべく、米軍横須賀基地を拠点とする原子力空母ロナルド・レーガンが朝鮮半島付近に向かっていると報じられる中で強行された。ここでミサイル発射を押しとどめれば、圧力に屈したとの印象を与えかねないし、逆にこのタイミングで発射すれば、国威発揚に繋がると見ているフシがあると報じられた。
 そして29日の弾道ミサイルは、東部元山付近から発射され、東方向に約6分間飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。短距離弾道ミサイル「スカッド」の一種と見られ、推定約450キロを飛行し、日本のEEZ内に敢えて着弾させたのは、命中精度を誇示し、いつでも在日米軍基地を攻撃できると威嚇する意図があると見られたものだが、実際に北朝鮮の朝鮮中央通信は、新開発した精密誘導システムを導入した弾道ミサイルの発射実験に「成功」したと発表し、7メートルの誤差で目標点に命中したと主張した。このときは、27日に閉幕した先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が北朝鮮を「新たな段階の脅威」と指摘するなど核・ミサイル開発に対する国際社会の圧力が強まる中での発射で、「圧迫は通用しない」と印象づける狙いがあると報じられた。
 国連安全保障理事会は昨日、北朝鮮の企業・団体・個人を資産凍結や渡航禁止の制裁対象に追加する決議案を全会一致で採択した。北朝鮮への制裁決議採択は7回目だが、国際社会にとっては無力感、手詰まり感が漂う・・・
 と、思うのは私たちだけで、北朝鮮情勢が緊迫して以降、安倍首相は「安保法制も、集団的自衛権も、やっておいてよかった。シナリオ通り」などと、却って元気になったと伝えられたものだ。国会で野党は緊迫感もなく森友学園や加計学園のスキャンダルにうつつを抜かし、二重の意味で、内閣支持率が下がらないのを助けているのは事実だろう。「外患」の効果はスゴイとか、「神風」ならぬ「北風」がまた吹いた、などと官邸では言われているらしい。確かに実際に核弾頭が小型化され大陸間弾道ミサイルに搭載されて発射されるのは数年先のことで、それすら今どき現実的とは思えないのは事実であり(さりとて北朝鮮が暴発するリスクは依然あると思うのだが)、中国あたりは、日本が北朝鮮情勢が緊迫するのを国防強化に利用している、などといつも陰口を叩き・・・与・野党ともに、また米・中ともに、一体どこまで真剣なのか猿芝居なのか、なかなか理解に苦しむところではある。
コメント
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