風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

なごり雪

2010-03-16 00:27:44 | スポーツ・芸能好き
 伊勢正三さん作詞・作曲の「なごり雪」は、私が最も好きな曲の一つです。もしかしたら日本のフォーク・ソングの中で一番気に入っているかもしれない。作詞を専門にしていた伊勢正三さんがプロになって初めて作曲した楽曲で、かれこれ36年前、1974年のことでした。折りしも、「神田川」のヒットを飛ばしたかぐや姫が次にシングルカットする曲として、南こうせつさんは「なごり雪」を選びたかったらしいのですが、「赤ちょうちん」と「妹」の映画化が決まっていたため、叶わなかったと言われます。結果として、かぐや姫の代表作となる所謂「四畳半三部作」が生まれ、「なごり雪」の方は、翌年、イルカがカバーして大ヒットしました。
 伊勢正三さんの曲づくりも、貧しくも哀しく美しい四畳半ソングの範疇に入りますが、南こうせつさんの、下駄と手ぬぐいの肌合いの、歌声そのままに温かみのある素朴な曲づくりに比べると、伊勢正三さんの場合は、ちょっとクールに気取った男のロマンが漂います。続いて出した「22才の別れ」もヒットし、本人によると、「なごり雪」は自分の好きな世界が自然に沸き上がってできた作品、「22才の別れ」はヒットを意識して作った作品だそうですが、いずれにしても、長い人生のこの短い期間に、伊勢正三さんの代表作が相次いで生まれたことになり、感性の働きにも天の時というものがあるのが不思議にも看取されます。本人の言によると、「20歳から21歳になりかけのときに作った作品だけど、今、50歳を過ぎて知識も増えたけれど、ことばで負けている」ということです。
 さて、随分、前置きが長くなりました。「なごり雪」の歌詞に歌われている舞台は東京の駅ですが、モチーフになったのは、実は伊勢正三さんの出身地・大分県津久見市の津久見駅なのだそうです。この週末、そのJR津久見駅構内に、「なごり雪」の記念碑が建てれらたというニュースが報道されました。記念碑といえば、桜島にある林芙美子の歌碑「花のいのちは短くて苦しきことのみ多かりき」をつい思い出してしまう鹿児島人の私ですが、「なごり雪」も、時代こそ違え、名曲の一つに数えられるようになったとの感慨を深くします。

 汽車を待つ君の横で
 ぼくは時計を気にしてる
 季節はずれの雪が降ってる
 「東京で見る雪はこれが最後ね」と
 さみしそうに 君がつぶやく
 なごり雪も 降る時(とき)を知り
 ふざけすぎた 季節のあとで
 今 春が来て 君はきれいになった
 去年よりずっと きれいになった

 動き始めた汽車の窓に 顔をつけて
 君は何か 言おうとしている
 君の口びるが「さようなら」と動くことが
 こわくて 下を向いてた
 時が行けば 幼い君も
 大人になると 気づかないまま
 今 春が来て 君はきれいになった
 去年よりずっと きれいになった

 君が去った ホームに残り
 落ちてはとける 雪を見ていた
 今 春が来て 君はきれいになった
 去年よりずっと きれいになった
コメント
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