保健福祉の現場から

感じるままに

医療事故調査制度の行方

2015年04月25日 | Weblog
日経メディカル「遺族に報告書が渡れば民事訴訟は避けられない 弁護士の長谷部圭司氏に聞く」(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t232/201504/541787.html?myselect=20150424)。<以下引用>
<予期しない死亡事故が発生した際に第三者機関に報告し、院内での医療事故調査を義務づける法律が今年10月から施行される(参考記事)。今年3月には医療事故調査制度の運用指針を議論してきた「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が具体的な運用指針案を公表。先日まで、パブリックコメントを募集していた。制度施行を前に、医療事故に関する訴訟を数多く手掛けてきた北浜法律事務所の長谷部圭司氏に医療事故調査制度のあり方について聞いた。――長谷部先生と医療事故調査制度との関わりについて、お教えいただけますでしょうか。 私自身は、現在の医療事故調査制度設計自体に、直接関わりを持っていませんが、この制度に期待と不安を抱いています。特に不安に関しては、以下に述べるように数々の問題が予想されていますので、講演会やシンポジウム、さらには各病院での講習などを通じて啓発を行っています。――今年3月には医療事故調査制度の省令・通知案が示されています。遺族側が求めた場合にはこの報告書を渡すことを事実上、努力義務にしているほか、第三者機関が調査した場合は遺族に報告書を交付することになっています。報告書が遺族の手元に渡ることで民事訴訟は増えると考えられます。それだけではなく、刑事訴訟を誘発するのではないかと感じています。最も問題なのは、報告書が刑事訴訟に使用される恐れがあるという点です。もちろん民事に使用されるのも困るわけですが、最悪、民事訴訟は保険で補填されます。一方、刑事事件で有罪となった場合、損害保険では補填することはできず、有罪となった医師は医道審議会にかけられ、医師免許が取消しになる可能性が出てくることになります。このようなことになれば、通常の医師は過失がないようにと、過度に防衛医療に走ることになり、医療費の増大と萎縮医療を引き起こしかねません。報告書が刑事事件の資料として扱われないという保証は全くありません。刑事事件の資料として使わないとする、努力目標があるにすぎないのです。法律上の制限もないのに、警察官や検察官が捜査の手を緩めることは考えられません。そうなると、医療事故調査制度のために当事者が正直に話した結果、それが刑事事件の証拠として使用される可能性があるわけです。しかし、これは黙秘権の侵害となります。つまり、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない(憲法38条1項)」「取り調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない、旨を告げなければならない(刑事訴訟法198条2項)」と規定されているのに、そのような告知なく自分の不利益になるかもしれない供述をさせられてしまうのです。ですから、当事者から聞き取りをする場合には、黙秘権の告知もないと、事実上の黙秘権侵害が発生すると言えます。一方、上記の憲法上の人権の侵害を防ぐために、医療事故を起こした当事者に対し、事前に黙秘権について告知するとなれば、おそらく事故の経緯を話さない医師も出てくることでしょう。そうなると、医療事故の本質に近づけず、今回の制度の目的である「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」を達成できなくなってしまいます。これでは、医療事故調査制度の意味が全くありません。この医療事故調査制度で予想されている人権侵害に関して、今のところ弁護士会は一切動いていません。殺人事件の被疑者ですら、黙秘権が侵害されたとき、弁護士は大きな声でそれを指摘するのに、です。医師には人権は無いのでしょうか?――医療事故調査制度のために、当事者に話を聞く行為が将来的に刑事訴追の材料となる可能性が少しでもあるならば、医療者は医療事故調査に協力することをためらってしまってもおかしくはありません。どうすれば医療事故調査の目的を果たせるのでしょうか。私は、医療事故調査と医療者の黙秘権保護を両立するためには、「医療者の刑事免責」しかないと感じています。医療事故調査に協力する代わりに、刑事訴追をしないことを補償するということです。これは何も医療者が何をしても許されるべきだということを言っているのではありません。もし、誤投与など明らかに医療者に非があった場合は賠償・補償を行うなどの道はもちろんそのまま存在していますし、故意による場合については当然免責の対象となるものでもありません。もし免責を保証できないというのであれば、医療事故調査制度を行うにあたって、(1)黙秘権を告げた上で行う、(2)医療事故調査を、当事者を加えずに行う――のどちらかを選択しないとならないと考えます。(2)については、先ほどお話したとおり、今回の制度の目的を考えれば、現実的ではありません。医療事故の再発防止のため、さらに原因究明までするためには、当事者に正直に話してもらうことが不可欠です。刑事免責の議論をすると、「医療だけ特別扱いするのはおかしい」「一生懸命で済むならば警察はいらない」「特権階級を振りかざした恫喝だ」と言われることがよくありますが、果たしてそうなのでしょうか。 そもそも医師は、生命身体を取り扱っているため、ミスをすれば身体に何らかの影響がある確率が高いのです。ヒューマンエラーは必ず起こるものだということを踏まえると、普通に仕事しているだけで逮捕される職業と言えます。「業務の本質に起因するミス」で逮捕されるのであれば、「間違った品物を配達した配送員」「値段を間違えて販売した店員」「誤認逮捕した警察官」「法令解釈を誤った裁判官」も刑事手続きで裁かなければならなくなります。そもそも医師による医療行為は正当業務行為として、故意の傷害罪が違法性阻却されています。つまり、生命身体を故意に侵害してもよいと法律で規定されているのです。しかし、医療行為で過失があり、傷害が生じると業務上過失傷害に問われてしまうのです。さらに、医師には応招義務があり、「医療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない(医師法19条)」と規定されていますから、医師が危険から逃げることができないのです。これでは医療現場が萎縮してもおかしくはありません。この萎縮をなくすことこそ、医師にとっても患者にとってもメリットになると思うのです。再発防止を目的を達成し、国民全体がより安全な医療を受けることができるようになるためにも、医療事故については刑事免責することが大事だというのが私の主張です。医療事故調査制度の目的を達成するためには、当事者の刑事免責しかないと私は考えています。――現状示されてる制度に対し、指摘されているような問題への対策はないのでしょうか? ないわけではありません。ヒューマンエラーではなく、病院のシステムエラーに着眼した報告書を書ければ、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」という法律の目的を達成でき、かつ個人責任の追及を避けられる可能性はあります。過去の医療事故に関する訴訟では、システムエラーではなく、ヒューマンエラーに着目した書き方になっていた例が多いです。しかし、ヒューマンエラーは必ずあるもので、ヒューマンエラーがあることを前提に、システムを構築することが大事なのです。ヒューマンエラーに注目しても医療安全にはつながらないのです。システムエラーに着目するというのは、例えば、使用する薬剤の取り間違いが起きた際、その原因分析として「似たような薬剤を同じ棚に置いている」「ダブルチェック体制がない」など、病院のシステム的な問題を指摘するというものです。そうすれば、結果として個人の責任追及を避けられます。――システムエラーに着目した院内調査を経験したことのない施設にとっては、とても難しいことのように感じますが……。システムエラーに着目した院内事故調査が難しければ、システムエラーを検討する必要性を十分に理解している支援団体に依頼するのがよいでしょう。そうは言っても全国で発生する医療事故調査を支援するには人手不足なのかもしれません。私自身は、システムエラーに着目した報告書の作成法を各医療施設に指導するため、支援団体に入ることを視野に入れています。今後は7月以降、医療事故調査制度に関するセミナーを開始し、院内調査や報告書作成時の注意点について指導したいと考えています。――医療事故調査制度に基づいて手続きを進めている中で、やはり遺族側に補償した方がよいと判断した場合はどうすればよいのでしょうか。そもそも今回の制度と、賠償は別問題です。賠償はこれまでも行われてきたことですし、ヒューマンエラーであってもシステムエラーであっても、和解を目指し、必要に応じて賠償することに変わりはありません。――第三者機関に提出するものは、聴き取りなどの内部資料は含まず、匿名化するよう通知案では示されていますので、責任追及には使われないのではないかという指摘も聞きます。このあたりについて、先生はどのようにお考えでしょうか。その内部資料も、警察の強制捜査では押収の対象となってしまいます。法律上、その文書は対象とならないとは書かれていませんから。そうすると、匿名化しようと問題は解決しませんよね。――最近は医療事故への刑事介入が減ってきたという声もありますが、この点についてはいかがでしょうか。大野病院事件以降、確かに社会の流れが変わり、警察・検察が謙抑的になってきたことは事実だと思います。しかし、減ってきたという事実上の話と、追及可能かどうかの法的な問題とは別個の問題です。法律家はいつも、「人権侵害となるおそれがある」だけで大騒ぎします。つまり、人権侵害は、法的に可能性があればダメなのです。ですから、刑事責任を追及可能である限り、問題は解決しません。>

M3「日本医療安全調査機構、“事故調”の準備着々 過去10年間のモデル事業239例も総括」(http://www.m3.com/news/iryoishin/314965)。<以下引用>
<日本医療安全調査機構は4月22日、2015年度の第1回運営委員会を開催、今年10月からスタートする医療事故調査制度における第三者機関である、「医療事故調査・支援センター」として手を挙げるべく、さまざまな準備を進めていることを報告した。運営委員会の座長を務める、東京大学法学部教授の樋口範雄氏は、委員会の冒頭で、「新たな制度の医療事故調査・支援センターを担うのは、他にはないという覚悟で、粛々とやっていきたい。これまで機構でやってきたモデル事業(診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業)を総括し、次につなげないといけない」と挨拶、意気込みを見せた。日本医療安全調査機構は現在は一般社団法人だが、公益法人の申請を昨秋に内閣府に対して行い、この5月には認可が下りる見込みだという。既に同機構理事会で了承された2015年度予算では、厚生労働省の医療事故調査・支援センターに対する補助金である5億3900万円を収入として見込んでいる。院内調査ガイドライン(1、2カ月以内に公表予定)、医療事故報告に関する相談体制をはじめ、医療事故調査・支援センターに必要な体制整備のほか、(1)院内調査マネージメントコース(7月以降、全国7カ所で実施予定)、(2)院内調査指導者養成コース(9月)、(3)医療事故調査制度の説明会、講演、広報資料等による周知活動――などの実施も予定している。さらに、モデル事業の在り方も見直し、9月までの半年間は、新制度に近い院内調査中心の「支援型」調査を、パイロット的に10事例程度実施する予定。「10月からの仕組みを先行してやっていきたい」(樋口氏)。モデル事業がこれまで実施してきた、第三者機関が調査する「従来型」と、第三者機関が院内調査への外部委員の派遣や報告書の検証などを行い、当該医療機関とともに調査する「協働型」についての新規受け付けは、ストップする。22日の運営委員会では、2005年度から日本内科学会で、2010年度からは日本医療安全調査機構で実施してきた、モデル事業の総括案も了承した。過去10年間に実施した計239例の実績のほか、医療事故調査制度についてさまざまな提言を盛り込んだ内容だ。調査結果の報告・遺族への説明については、「遺族と医療機関が事実を共有することが原則であり、そのためには口頭での説明だけではなく、報告書の交付が望ましい」とし、特に院内調査結果の報告書交付について、「報告書作成時における記載方法に留意し、事実と専門的評価を伝えるという原則を基本とした対応が重要である」とした。報告書交付は、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」で最後まで議論になった点だ(『“事故調”の説明、「遺族が希望する方法で」』を参照)。樋口氏は、「総括をできるだけ早く公表して、医療事故調査制度の中で生かしてもらいたい」と述べ、同機構理事長の高久史麿氏も、「早急にホームページで公表した方がいい」と述べ、モデル事業の経験を新制度に生かしたい意向を示した。機構には厚労省退職者が入る可能性も 運営委員会では、本機構中央事務局長の木村壮介氏が、モデル事業の総括案、2015年度の予算や事業計画などについて説明した。医療事故調査・支援センターは、厚生労働省が公募し、厚労大臣が指定する。まだ公募は始まっていないが、センターとして指定された場合に想定される運営形態として、木村氏は「日本医療機能評価機構が、委託を受けて、病院機能評価事業、医療事故情報収集等事業、産科医療補償制度運営事業をやっているのと同様になる」との見通しを説明。日本医療安全調査機構という名称は変わらず、機構の業務の一部として、センター業務を受けることを想定している。「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之氏が、「厚労省がどのくらい関与するのか。あまりにも関わってきたら問題」と質問。木村氏は、「民間の組織として存在するので、厚労省は関係ない」としつつ、類似の公益性の高い組織と同様に、厚労省を退職した人などが入ってくる可能性はあるとした。「行政とのパイプ役として機能すればいいが、管理される形になるのは問題」(木村氏)。日本医療安全調査機構の予算は、厚労省の補助のほか、同機構の社員・団体の会費(基本領域の学会20万円、サブスペシャリティの学会10万円)や助成金、寄付金などで賄う。「支援型」調査、費用は各医療機関の負担 この4月から9月まで、「支援型」の医療事故調査を行う理由について、木村氏は、「次の制度に滑らかに移行するためにも、(医療事故調査が)途絶えることはよくない」と説明、最近のモデル事業で「協働型」が増えてきたのも、新制度をにらんでのことだという。「支援型」の調査では、(1)解剖、(2)外部委員の参加、(3)院内調査の具体的な方法――について相談に応じるほか、院内調査結果報告書(案)について、中立・公正な立場で確認し、医学的妥当性等の観点からの見解を伝える。ただし、問題となるのは予算だ。従来は日本医療安全調査機構の予算で、調査費用を賄ってきた。しかし、この「支援型」についての予算は確保されていないため、各医療機関の負担で行う。調査にかかる費用は、実費で負担してもらうほか、機構への調査申請費用として、10万円を求める。「再発防止策、個別事案でも必要」 運営委員会では、10月からの医療事故調査制度についても議論になった。その一つが、センターにおける調査分析と再発防止策の検討。木村氏は、厚労省の通知案を踏まえ、「一例一例について、医療機関に返すのではなく、事例を集積し、一般化・普遍化した形で再発防止策をまとめる」と説明。これに異論を唱えたのが、弁護士の鈴木利広氏。医療法上では、「収集した情報の整理および分析を行う」となっているとし、そのあり方は省令ではなく、通知で規定され、「まだ決まっていない」と指摘。その上で、鈴木氏は、「限定的に考える必要はないのではないか。仮に通知で、集積した事例の分析に軸足を置くとしても、個別事例について分析してはいけないとなると、医療安全につながっていかないのではないか」との考えを述べ、個別事例の再発防止策も検討すべきとした。 永井氏も、鈴木氏の意見を支持したほか、(1)センターは、遺族あるいは現場の医療者からの相談を受ける、(2)解剖費用などを負担する仕組みを作る――などを求めた。これらの意見に対し、木村氏は、「内部告発もあるので、もう少し考える必要があるかもしれない。センターは、遺族から相談を受けた場合には、医療機関に伝えないといけないと個人的には思っている」との考えを示し、費用については当事者や遺族に負担がかからない配慮することが必要とした。モデル事業、「従来型」は平均11.1カ月 モデル事業の総括は、事業の概要や実績、医療事故調査制度への提言をまとめた内容。2015年3月現在、9つの地域事務局を置き、計12の都道府県で実施している。過去10年間で357事例の相談があり、うち遺族の解剖への承諾が得られなかった事例などを除き、239事例の調査を実施した。評価を終えた事例のうち、遺族の了解が得られなかった10事例以外の187事例については、評価結果概要を機構のホームページに掲載している。依頼した医療機関は比較的大規模な施設が多い。診療科別では、消化器外科(16.4%)が最も多く、死亡に至る経緯としては、手術等が48.3%で全体の約半数を占めた。モデル事業は、解剖を前提としている。2010年度から2012年度までに評価を終了した73事例では、計60事例(88%)において「死因究明、原因究明において調査解剖が大きく貢献している」と総括。申請受付から、遺族と医療機関への説明会開催までの期間は、「従来型」は平均11.1カ月、「協働型」は、協働調査委員会に加え、中央審査委員会を開催するために平均15.8カ月かかった。費用は、「従来型」が約90万円、「協同型」は約51万円だった。そのほか総括では、事例受付から、調査の在り方、評価結果説明に至るまで、モデル事業で培った経験をまとめている。>

M3「「カルテで過失の有無を判断」、保険会社が答弁 産婦人科協会設立総会、「産科医療補償制度の本音が判明」」(https://www.m3.com/news/iryoishin/313858?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=MD150421&dcf_doctor=true&mc.l=98387471)。<以下引用>
<一般社団法人日本産婦人科協会が発足、4月18日に設立総会が開かれ、「産科医療施設のリスク管理はどうあるべきか」をテーマに、シンポジウムが企画された。同協会は、分娩を取り扱う診療所や助産所などで構成、4月18日現在の会員数は379施設に上る。その席上、同協会事務局長の池下レディースチャイルドクリニック(東京都江戸川区)院長の池下久弥氏は、「産科医療補償制度の本音が判明した」と注目すべき発言をし、同制度が単に重度脳性麻痺の子供に対する補償だけでなく、責任追及の仕組みであるとの危機感を示した。事の発端は、池下氏が、産科医療補償制度の補償金の支払いを求め、同制度を運営している保険会社の一つである、東京海上日動火災保険株式会社を訴えた裁判。現在、控訴審中の同裁判において、東京海上は今年3月12日付の「控訴審答弁書」で、「事故の原因分析、その結果による分娩機関の過失の有無の判断のためにも、診療録および検査データ等の写しは必要なのであって、機構が補償約款によりこれらの提出を求めることには合理的な理由がある」と記載していた。池下氏が「本音」とするのは、この「過失の有無の判断」という部分だ。「機構」とは、本制度を運営する日本医療機能評価機構のこと。産科医療補償制度は、補償と原因分析報告書の作成をセットで行う。同機構は、「原因分析報告書は、医療安全の向上を目指すものであり、責任追及が目的ではない」と説明してきたが、東京海上の主張はこれと矛盾する。従来から池下氏は、原因分析報告書について、当事者の分娩機関が異議申し立てをできないほか、過失認定につながるなどの理由から、問題視してきた。報告書は、事実の認定にとどまらず、「誤っている」「劣っている」など、行為の妥当性を判断しているからだ(『産科医療補償制度で訴訟は増加するか』などを参照)。両親、原因分析報告書作成を望まず 産科医療補償制度の補償認定は、小児神経分野の医師などが作成した「診断書」を基に行われる。診療録は、主に原因分析報告書作成時に使用される(『補償や原因分析にカルテは必要 - 日本医療機能評価機構に聞く』を参照)。本裁判は、池下氏自身が担当した、重度脳性麻痺で生まれた子供の補償をめぐるもの。妊婦は経産婦で、健診では異常はなかったものの、2012年8月に第38週で陣痛を覚え、午前4時ころに急きょ入院、緊急の帝王切開手術を行った。池下氏は、院内で検討し、重度脳性麻痺の原因は、常位胎盤早期剥離と判断。妊娠や分娩の経過、自院で調査した結果などを基に、診療経過に過失はなかったことを確認した上で、2013年9月に両親に産科医療補償制度と同額の3000万円を支払った。同制度は、3000万円を20年にわたり分割して支払う。子供の両親が、仮に子供が死亡しても支払いが続くことなどを避けたいと思い、一括支払いを希望したため、池下氏が肩代わりした形だ。なお、両親との間に争いはなく、女性は2014年夏にも、池下氏のクリニックで出産している。その後、2014年3月に、日本医療機能評価機構に対して補償を申請。「診断書」などで補償対象基準を満たしていることが明らかであるため、機構には診療録を提出しなかった。両親は、原因分析報告書は匿名化されるものの、同機構のホームページで公表されるため、それを嫌がり、作成を望まなかったからだ。その結果、補償審査がたなざらしとなった。そこで池下氏は2014年8月、東京海上に3000万円を直接支払うよう求めるため、東京地裁に提訴した。しかし、同年12月の東京地裁判決は、本制度に適用される保険約款には、「日本医療機能評価機構が、補償対象として認定する場合に限り、保険金を支払う」と記載されていることを指摘し、機構の認定を経ずに東京海上が支払う理由はないとして、池下氏の請求を棄却した。池下氏は判決を不服として控訴。池下氏の代理人弁護士の井上清成氏は、本裁判の意味について、「補償と原因分析が一体化していることが、産科医療補償制度の問題。難しい裁判とは思っていたものの、診療録がなくても補償が下りれば、この点にくさびを打つことができると考えた」と説明。「補償認定に、診療録が必要か否か」を争っていた裁判の副産物として、診療録を「過失の有無の判断」に用いる、つまり産科医療補償制度が責任追及と連動した仕組みであるという、保険会社の「本音」が出てきたとも言える。控訴審判決は5月に予定されている。この10月からスタートする医療事故調査制度では、「死産」も対象になる。池下氏は、本制度について、「医療事故調査制度は、産科医療補償制度を反面教師としている。産科医療補償制度を今後、どのようにして改善するかが課題」とした。井上氏も、「産科医療補償制度は、医療事故調査制度に倣い、見直すべき」と指摘した。産科医療補償制度、大綱案の「古いスキーム」 日本産婦人科協会の会長には、大川産婦人科医院(東京都日野市)院長の大川豊氏が就任。紛争に巻き込まれた施設への支援や、産科医療をめぐる制度改正への提言などを行っていく方針。前身は、任意団体として1997年に発足した産科中小施設研究会で、出産育児一時金直接支払制度の導入撤回などの活動を展開してきた(社保審で8月末までに結論、出産育児一時金等直接支払制度』などを参照)。シンポジウムでは、池下氏と井上氏が言及したように、産科医療補償制度の問題点のほか、医療事故調査制度に対し、分娩施設がどのように対応すべきかが問題になった。井上氏は、「医療事故調査制度は、古いスキームで作られた産科医療補償制度と比べれば、いい制度になっている」と見る。「古いスキーム」とは、前自民党政権時代の2008年6月にまとめられた医療事故調査制度に関する「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」のスキームだ。産科医療補償制度のスタートは2009年1月であり、「両制度は同じようなメンバーが議論し、作成した」(井上氏)。10月からの医療事故調査制度は、「大綱案」と異なり、(1)第三者機関の調査ではなく、院内調査が基本、(2)調査結果を行政等に通知する仕組みがない、(3)原因究明ではなく、再発防止のための調査という意味合いが強い――などの相違があると、井上氏は説明。「産科医療補償制度は、無過失補償を口実にして、何もかも調査しようとしている。原因分析報告書は、当事者の意見を聞かずに作成され、子供の家族側に交付される。表面的には訴訟が増えていないと言うが、報告書を基に、水面下で損害賠償請求が行われている」(井上氏)。医療事故調査制度に倣い、産科医療補償制度を見直すべきとするゆえんだ。自然死産は報告の対象外 シンポジウムでは、医療事故調査制度への対応が議論された。特に問題になったのは、第三者機関である医療事故調査・支援センターに報告する医療事故の定義だ。報告すべき医療事故は、法律上、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産であって、当該管理者が当該死亡・死産を予期しなかったもの」と定義されている。まず問題になるのが「死産」。厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、自然死産も含まれるか否かが議論になった。同検討会に参考人として出席した池下氏は、「胎児因子から母体合併症まで、自然死産は約1%存在する。これらは全て医療行為中のものであっても、予期していたものと認めることができる」との解釈を示した。また井上氏は、「妊婦健診は医療ではなく、健診中の自然死産は報告しない」とした上で、「健診で異常が見つかり、何らかの医療行為が行われ、その行為により死産に至れば、報告対象にはなり得る」と説明。死産の説明、妊婦のストレスに 厚労省は、「予期しなかった」に該当するのは、「死産を予期していることを説明していた」など、3条件に該当しない場合と定義する方針。自然死産などをどのように妊婦に説明するかについても、議論になった。池下氏は、自院では妊婦への同意書に、「自然死産は、100人中約1人、母体死亡は2万人に約1人あります」と記載している。しかし、厚労省は統計的データではなく、当該妊婦等の個別ケースについての説明を前提とする方針。日本産婦人科協会副会長で、池川クリニック(神奈川県横浜市)院長の池川明氏からは、「自然死産には、妊婦のストレスも影響していると考えている。妊婦に安心・安全を与えるための医療と、医師を守るための医療が相反する。妊婦に自然死産や母体死亡のリスクなど厳しいことを言えば、医師は身を守れるが、妊婦のストレスになる。自然死産について、どう説明するかは悩ましい問題」と、現場の苦悩を語った。井上氏は、「3条件」の中に、口頭で説明しなくても、診療録等への記載があれば、「予期していた」と認められるとされているとし、状況に応じて医師が判断し、対応するよう提案した。>

M3「医療事故、警察への届出、2割も増加」(http://mm.m3.com/r/6d6DL-16Lf-1aRI.html?dcf_doctor=true)。<以下引用>
<医療事故等の関係で、医療者や家族などからの警察への届出件数は、2014年1年間で137件に上り、2013年と比べて約2割増加したことが、このほど明らかになった。2011年は146件と多かったものの、2012年は117件、2013年は114件と2年連続で減少したものの、また増加に転じた(2013年のデータは、『医療事故、被害者からの届出は微増』を参照)。137件の内訳を見ると、最も多いのが、医療関係者等からの届出で88件で、前年比13件増、家族等からの届出は40件で、前年比6件増で、いずれも17%の増加。2014年は、今年10月からスタートする医療事故調査制度の論議が活発だったほか、東京女子医科大学病院のプロポフォール投与事故をはじめ、医療事故の報道がそれ以前よりは目立ったため、警察への届出にも影響したことが考えられる(『医療界の自発的な取り組みへの信頼が基本』を参照)。 届出数増加の一方、2014年の年別立件送致数はそれ以前の2カ年と比べて、少ない。2013年は93件、2013年は81件だったが、2014年は55件にとどまっている。過去10年では、2011年と並んで低い数値だ。この年別立件送致数には、2014年よりも前に届出があり、送致された件数も含まれる。各年の届出が立件送致された数を見ると、2013年の114件の届出のうち、2013年中に送致されたのは2件だったが、2014年末まででは15件、その差、13件が2014年に送致されたことが分かる。データが入手可能だった2005年以降では、古いものでは2006年の70件のうち、3件は2014年に送致されたものだ。2014年に増加に転じた届出が今後、どの程度、送致されるか、その動向が注目される。>

厚生労働関係部局長会議資料(http://www.mhlw.go.jp/topics/2015/02/tp0219-1.html)の医政局資料(http://www.mhlw.go.jp/topics/2015/02/dl/tp0219-03-02p.pdf)p37~p40、全国医政関係主管課長会議(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=180575)の資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000077058.pdf)p5~6にあるように、今年10月に医療法による医療事故調査制度が施行される。医療事故調査制度の施行に係る検討会」(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=228657)の取りまとめ(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000078202.html)に目を通しておきたい。日本病院会「平成26年度 医療安全に係わる実態調査報告書(抜粋)」(http://www.hospital.or.jp/pdf/06_20150306_01.pdf)p18「全国規模への推計;「患者が死亡、あるいは重篤な後遺障害を残した医療事故の経験数」」で、「全国;2506件/年[病床規模別発生件数の合計で算出]、1施設当り;0.65件/施設/年[全国を同一規模とした場合の平均]」とある。全国医政関係主管課長会議(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000077064.html)の資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000077058.pdf)p44「管下医療機関に対し、管理上重大な事故等が発生した場合は、保健所等へ速やかに連絡を行うよう周知いただくとともに、立入検査等を通じ、必要な指導等を行うようお願いする。」とあり、重大事故の際には保健所にも連絡が入るよう、要請されている。資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000077058.pdf)p5に示すように対象となる医療機関は病院・診療所・助産所であることは理解したい。なお、厚労省資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000077059.pdf)p138~にあるように、産科補償制度は今年から制度改正された。
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