保健福祉の現場から

感じるままに

特定健診・保健指導の懸念

2008年05月28日 | Weblog
「メタボ「健診」11%無料 本紙調査」(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/news/20080526-OYT8T00717.htm)の報道が目にとまった。<以下引用>
<メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防のため4月からはじまった「特定健診」と「保健指導」で、利用者負担を無料にしている市町村が、それぞれ11%と、68%に上っていることが、読売新聞の調査でわかった。調査は、3~5月に県内81市町村を対象に行い、88%にあたる72市町村から回答があった。健診を無料にしたのは、諏訪市など8市町村。「昨年度まで実施していた住民健診も無料だったので、その水準を維持した」という理由が多かった。諏訪市では「無料にしていたことへの評価が高かったので、有料化できない」と説明する。一方、保健指導を無料にしたのは、松本市など49市町村。未定としたところも14あった。有料とした自治体は、保健指導を外部委託する自治体が多い。無料にしている茅野市では「今年度は市の保健師だけで対応するが、手が回らなければ、来年度以降に外部委託を検討する」としている。特定健診や保健指導の実施率などが国の目標に達しない市町村には、後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の負担を重くするペナルティーがある。保健指導を無料とした岡谷市では「無料にしてペナルティーを回避できれば、結果的に支出は少なくなる」としている。>
 
しかし、この市町村の回答は、市町村国保加入者に対するものであろう。高齢者医療確保法(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/hoken83b.pdf)第二十条、二十四条により、特定健診、特定保健指導の実施主体は各医療保険者であるが、被用者保険での自己負担はどうであろうか。特に被扶養者については、昨年度まで、市町村の基本健診の対象者であったものが、今年度から各医療保険者による特定健診に切り替わった。医療保険者による特定健診の案内・取りまとめ、特定保健指導の実施機関、特定健診・特定保健指導の自己負担額等の調整と周知は十分になされているであろうか。とにかく、組合健保、政管健保等の医療保険者にとっては、被扶養者を含む特定健診、特定保健指導にかかる予算を捻出するのは大変かもしれない。被保険者に対しては新たに特定保健指導が加わるとともに、被扶養者に対する特定健診・特定保健指導が義務化されたからである。全国的に人間ドックを縮小する動きもみられるようである。組合健保も政管健保も財政的に厳しい状況が報道されている。

「健保組合の赤字拡大、過去最大6322億円の見込み 健保連」(http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=15712&freeWordSave=1)。<以下引用>
<健康保険組合連合会は4月21日までに平成20年度の健保組合予算早期集計結果をまとめた。この集計結果は、20年度制度改正による組合財政への影響等を早期に把握するため、現段階において20年度予算データの報告があった組合(1285組合)の数値をもとに、全組合の20年度予算状況を推計し、前年度との対比を行ったもの。平成20年度の経常収支状況については、全組合相当に引き伸ばして推計すると、過去最大の6322億円の赤字となる見込みとしている。また、全組合に対する赤字組合の割合は約9割(昨年度7割)に拡大する見込みとしている。>

「福田、今度は“医療改悪”で「サラリーマン」いじめ  中小企業対象「政管健保」公法人化」(http://www.zakzak.co.jp/top/2008_05/t2008052231_all.html)。<以下引用>
<福田康夫首相の下、「老人いじめ」の次は「サラリーマンいじめ」が始まる。今年10月から、中小企業の従業員と家族が加入する政府管掌健康保険(政管健保)が公法人化される。悪評高き後期高齢者医療制度とともに自公与党の強行採決で成立したもので、制度変更に伴い、保険料は最大で7万円アップするとされ、対象者は約3600万人に及ぶ。内科医で医療問題に取り組む国民新党の自見庄三郎元郵政相が、制度の問題点と隠された悪意に切り込んだ。「後期高齢者医療制度は75歳以上という年齢で人の命を差別するが、政管健保の公法人化は職業や地域によって人の命を差別する。政府による責任放棄に他ならない。とんでもない医療制度改悪だ」と、自見氏は切って捨てる。政管健保とは、中小企業の従業員とその家族が加入する健康保険で、政府(社会保険庁)が事務手続きを含めた運営を行っている。後期高齢者医療制度の対象は約1300万人だが、政管健保の加入者は約3600万人で、全人口の約28%にあたる。この政管健保が10月から公法人の全国健康保険協会に移管され、47都道府県単位に分けて財政運営される。06年6月、郵政選挙で圧勝した小泉純一郎首相(当時)率いる自公与党が強行採決したもの。全国一律の保険料も廃止されるが、どんな事態が予想されるのか。自見氏は「東京など財政力のある都市部はいいが、財政力の弱い地方の保険協会は軒並み赤字に転落する。保険料率は高くなり、医療の質も悪化する。これは慢性ガンのようにジワジワと進行、日本が世界に誇ってきた国民皆保険制度を崩壊させる」と指摘する。現在、保険料率は全国一律で「8.2%」だが、公法人化されると、北海道や徳島、福岡、佐賀、秋田、石川、広島など12自治体で保険料アップが予想される。06年6月8日の参院厚労委員会で、厚労省は保険料率が上限の10%まで引き上げられた場合の試算として、04年度の平均保険料31万5237円から、約7万円アップの38万4435円という数字を示している。公法人化について、窓口である社会保険庁はHPで「保険財政運営の規模の適正化、地域の医療水準に見合った保険料水準の設定のため…」と解説するが、永田町事情通は「後期高齢者医療制度と同様、国民の命を犠牲にして医療費を削減するのが狙いだ」という。小泉内閣時代の06年7月に閣議決定された「骨太方針2006」では、11年に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するため、社会保障費を今後5年間で1兆1000億円(一般会計ベース)抑制する方針を決め、毎年2200億円が削減されている。国民の間にも「高齢化社会の進行で医療費が爆発的に伸びている。医療費を抑制しないと日本の経済は崩壊する」といった政府宣伝が定着しているが、自見氏はこれにも異議を唱える。「政府によるプロパガンダだ。OECDの『ヘルスデータ07』では、日本の総医療費は対GDP比8.0%(平均9.0%)で、加盟30カ国中22番目と低く、G7の中では英国に抜かれて最下位。日本より上位の国の経済社会は崩壊していないのが証拠」 「政府は自分たちに都合のいいデータを公表する。それに国民もメディアも政治家もダマされる。小泉内閣が進めた一連の医療制度改革は国民の生命や健康を考えたものではない。公的医療保険制度を壊して、外資中心の民間保険会社などにビジネスチャンスを広げようというものだ」 前出の骨太方針が決定される前年(05年)、米国が日本に突き付けた「年次改革要望書」には「日本政府は医療制度の重要な改正を検討している。米政府は、日本が経済財政諮問会議やその他の政府及び諮問機関に対して十分に意見を述べる意味のある機会を米業界を含む業界に与えるよう求める」との一節がある。小泉元首相が強引に進めた郵政民営化が年次改革要望書の重要項目だったのは有名な話。今回の医療制度改革の背後にも、ビジネスチャンスを求める「業界」の思惑があるのか。自見氏は「医療をソロバン勘定で律するのは大間違い。子供が交通事故で病院に運ばれて『お金がないから10万円までで治療してください。10万円以上なら殺して結構です』と医者にいう親がいるのか。米国には4700万人もの無保険者がいるが、政府はそんな医療保険制度にしようとしている。小泉元首相は確信犯だろうが、福田首相がこれを放置するなら同罪だ」と総括している。>

さて、先般、「特定健康診査及び特定保健指導に係る自己負担額の医療費控除の取扱いについて」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/dl/info03j-6.pdf)通知が発出され、医療費控除を受けられる者は、日本高血圧学会、動脈硬化学会、糖尿病学会の診断基準のいずれかを満たし、積極的支援を受けた者とされたが、果たして、どれほどのインセンティブになるであろうか。平成18年の国民健康・栄養調査(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/04/h0430-2.html)では、40~74歳では、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドロームが強く疑われる者又は予備群と考えられる者とされ、特定保健指導の対象者はかなり多いと思われるが、4月からの「e-ヘルスネット」(http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/)も是非活用したいものである。しかし、「e-ヘルスネット」が、厚生労働省の生活習慣病(健康づくり)特集ページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/index.html)からリンクされていない(終了した「健康ネット」のまま)のは、ちぐはぐに感じないでもない。ところで、特定健診・保健指導の数値基準に関して、以前から気になる点がある。一つは、メタボリックシンドロームの診断基準(http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-003.html)の数値と特定保健指導対象者選定のための階層化の数値(http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-04-002.html)が異なることである。つまり、メタボリックシンドローム予備群に判定されなくても、特定保健指導対象者と判定されることが少なくない。例えば、男性で、腹囲85cm、空腹時血糖100mg/dl、喫煙者の場合はメタボリックシンドロームの予備群にもならないが、積極的支援の対象になるのである。もう一つは、標準的な健診・保健指導プログラム確定版(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu/pdf/02.pdf)p48にでている健診判定値で「受診勧奨判定値」が比較的低く設定されていることである。例えば、LDLが140mg/dl以上の場合、中性脂肪やHDLが基準値以内であれば、特定保健指導の対象にはならないが、受診勧奨になり得るのである。
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