よい天気にはなったけれど、風が強い。それでもチューリップの土作りをする。部屋にいた時は思ってもみなかったが、ルーフバルコニーへ出てみると、立っていられないくらいの強風が吹いてくる。「お尻に火が点いているわね」と言って、私を送り出したカミさんは暖かな部屋でテレビを見ている。土作りは私の仕事だからただ黙々と作業をこなすしかない。今週は予定が詰まっていて、作業する時間がない。
とにかくやるしかない。亡くなった土井たか子さんの心境だ。鉢からサルビアを抜き、ビニールシートの上に広げて残った根を取り除き、赤玉土の大きなものは再利用するために取り出し、ミミズがいれば別の容器に移し、これでよいとなってここにバーク堆肥と乾燥牛フンと赤玉土の小を混ぜて完成である。こんな作業を延々と続ける。寒さ対策はしているけれど、風が強いから冷えてくる。それに土埃が風に舞い、目も痛い。午後4時、作業を終えて後片付けをし、部屋に入ってコーヒーを沸かして飲もうとしたところへカミさんが帰って来た。
「何?もう終ったの?コーヒーのいい匂いがしてるわね」と言う。「風が強くて作業にならないから」と早く終ったことに言い訳をしている。自分で始めて、自分が終了した。何も言い訳する必要がないのにと自分に腹を立てる。にもかかわらず、「今、飲もうとしたところ。半分分けるよ」と言って、コーヒーカップを取り出して湯を注いでカップを温め、コーヒーを半分分ける。「ちょうど、コーヒーが飲みたくてケーキを買って来たのよ」とカミさん。冷えた身体に熱いコーヒーと甘いケーキで丸く収まる。
昨夜、NHKBSで放映していたドラマを見た。小学生の女の子が橋から飛び降りそうなのを男性は救った。話を聞くと学校でいじめられていると言う。「困った時の魔法のカードだ」と言って女の子を元気付ける。女の子は「480万円が必要」と訴える。男性は女の子にお金を渡すが、それっきりになってしまった。男性が結婚したいと思っている女性に問い詰められ、男性はことのいきさつを話し、「あのお金で命が救われたならそれでいい」と言う。女性は「バッカじゃーない。あんたみたいな男とは絶対結婚しない」と言う。
結局、女の子はお金を返しに来る。女の子は「みんな損得でものを考えている。親切はウソっぽい」と思っていたのに、ちょっと変わった男性に救われたのだ。「愛されることよりも愛すること」などと若い時に議論したことを思い出す。秋は人肌が恋しくなる、どうしてなのだろう。