ある夜、10時半を過ぎていた。隣の小学校の運動場から、女の子の甲高い笑い声が聞こえる。何をしているのか、何を話しているのか、分らないけれど、笑い声だけが響き渡る。何人いるのか、男の子もいるのか、中学生なのか高校生なのか、それも分らないが、けたたましい叫び声のようにも笑い声のようにも聞こえる。孫娘に言わせると「たぶん、あの子たちだわ」ということだが、「あの子たちって誰?」と聞いても、それ以上に教えてはくれなかった。
孫娘が運動場にいなくて、ここにいるのは偶然のことなのだろうか。いや、私自身があの子たちの仲間にいなかったのは偶然なことだったのだろうか。小学校の時は、校区外から通っていたこともあって、本当に家の周りの子どもとしか遊ぶことはなかった。中学生になり、もう少し広い範囲で友だちが出来た。仲の良い5人組が生まれた。みんな成績も良かった。そのうちのひとりの家で、彼の父親が仲間と作っていたガリ版印刷の文集を見せてもらった。エロ本だった。
私も同じだったので、性的に早熟だった彼とは気が合った。ヌード写真や医学書も彼の家で見せてもらった。明るくて、おっちょこちょいでスポーツマンで、野球部で活躍していた。夜中に呼び出されて、2人で自転車に乗って、女の子の家々を回ったことがある。望遠鏡を持っての盗み見である。警察官に捕まれば、深夜徘徊の不良行為で大騒動になっていたであろう。中学3年くらいからだんだん疎遠になっていった。同じ高校へ入学したのに、話をすることもなくなってしまった。
彼は東京の大学に入ったが、私は上京しても一度も彼には会わなかった。彼の名前を聞いたのは何時だったか、中学のクラス会の時に人から「死んだよ。自殺だったんだよ」と聞いた。自殺をするようなナイーブな面が彼にあったのかと初めて思った。エロ本やヌード写真を一緒に漁るように見ていたことを一番思い出す。中学時代のわずかな印象だけで人を判断することは愚の骨頂であろう。何が彼を死に追いやったのか、私には全くわからないが、それくらい別の人生が彼にはあったということだ。
私がブログで中学・高校時代からの友だちのことを、<女の子なら誰にも声をかける男だった>と書いたことで、その友だちをヒドク傷つけてしまった。彼は「私の女性に対する振る舞いに人に不快感を与える媚びた面があったからなのだろう」とブログに書いていた。私は卑下したわけではなく、むしろ誰にでも声をかけられる彼が羨ましかった。私はハマリ込むタイプなのか、軽く付き合うということが出来ない。どんどんふたりだけの世界に行きたくなってしまう。
高校生になった時は、自分はもう大人だと思っていた。夜中に出て行こうが、誰かに責任があるなどとは考えてもいなかった。今、こうして夜半に、甲高い女の子の声を聞いて、どうして自分はあの子たちのようにはしなかったのかと思う。たまたま、声をかけてくるような仲間がいなかったのか、それとも初めから生きている領域が違うのだろうか。おそらく、人の一生は偶然だろう。その時々にどんな選択をしたか、周りの、あるいはその時の自分の興味が、大きく作用しているのだろう。
孫娘が運動場にいなくて、ここにいるのは偶然のことなのだろうか。いや、私自身があの子たちの仲間にいなかったのは偶然なことだったのだろうか。小学校の時は、校区外から通っていたこともあって、本当に家の周りの子どもとしか遊ぶことはなかった。中学生になり、もう少し広い範囲で友だちが出来た。仲の良い5人組が生まれた。みんな成績も良かった。そのうちのひとりの家で、彼の父親が仲間と作っていたガリ版印刷の文集を見せてもらった。エロ本だった。
私も同じだったので、性的に早熟だった彼とは気が合った。ヌード写真や医学書も彼の家で見せてもらった。明るくて、おっちょこちょいでスポーツマンで、野球部で活躍していた。夜中に呼び出されて、2人で自転車に乗って、女の子の家々を回ったことがある。望遠鏡を持っての盗み見である。警察官に捕まれば、深夜徘徊の不良行為で大騒動になっていたであろう。中学3年くらいからだんだん疎遠になっていった。同じ高校へ入学したのに、話をすることもなくなってしまった。
彼は東京の大学に入ったが、私は上京しても一度も彼には会わなかった。彼の名前を聞いたのは何時だったか、中学のクラス会の時に人から「死んだよ。自殺だったんだよ」と聞いた。自殺をするようなナイーブな面が彼にあったのかと初めて思った。エロ本やヌード写真を一緒に漁るように見ていたことを一番思い出す。中学時代のわずかな印象だけで人を判断することは愚の骨頂であろう。何が彼を死に追いやったのか、私には全くわからないが、それくらい別の人生が彼にはあったということだ。
私がブログで中学・高校時代からの友だちのことを、<女の子なら誰にも声をかける男だった>と書いたことで、その友だちをヒドク傷つけてしまった。彼は「私の女性に対する振る舞いに人に不快感を与える媚びた面があったからなのだろう」とブログに書いていた。私は卑下したわけではなく、むしろ誰にでも声をかけられる彼が羨ましかった。私はハマリ込むタイプなのか、軽く付き合うということが出来ない。どんどんふたりだけの世界に行きたくなってしまう。
高校生になった時は、自分はもう大人だと思っていた。夜中に出て行こうが、誰かに責任があるなどとは考えてもいなかった。今、こうして夜半に、甲高い女の子の声を聞いて、どうして自分はあの子たちのようにはしなかったのかと思う。たまたま、声をかけてくるような仲間がいなかったのか、それとも初めから生きている領域が違うのだろうか。おそらく、人の一生は偶然だろう。その時々にどんな選択をしたか、周りの、あるいはその時の自分の興味が、大きく作用しているのだろう。