村上春樹の小説を読むとき、スマホのユーチューブで、音楽を聴きながら楽しむことを覚えた。先日、買った『騎士団長殺し』では、モーツアルトのオペラ、『ドン・ジョバンニ』。このオペラのあらすじは、騎士団長の邸宅前の、ある明け方。ジョバンニは、騎士団長の娘、ドンナ・アンナの部屋に忍びこみ、犯そうとする。ジョバンニは娘に騒がれて逃げようとするが、父の騎士団長が駆けつけて、斬りかかるが、反対にジョバンニに切り殺される。娘は悲嘆にくれ、許嫁に復讐を果たすようにせがむ。
ジョバンニは、その場を従者にまかせて逃げ去る。悲嘆にくれる騎士団長の関係者への、従者のせりふがふるっている。「旦那に泣かされたのはあんただけじゃないよ。イタリアで640人、ドイツでは231人、しかしここスペインでは何と1003人だ。」ジョバンニというより、日本ではドン・ファンと呼ぶ方が通りが早い。スペイン伝説の放蕩者の物語りである。その序曲は、物語の悲劇の結末を予期させる重厚な曲になっており、いまなお聞くものの心に響いてくる。
村上春樹の小説は、日本画家が描いた「騎士団長殺し」と題する絵画をモチーフに、絵の中の騎士団長が原寸大のイデアとして登場する。絵画と音楽、現実とかけ離れた村上ワールドだが、読み進めていくうちにその世界に取り込まれていく。音楽を聴きながら、小説のなかの宇宙を見ていく楽しさが存分に味わえる。しばらく、この小説世界に浸る。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます