今年の梅雨は雨の日が多い。梅雨といえば雨が多いと決まっているが、空梅雨の年もあるし、適度に梅雨の晴れ間がやってくる。この2週間というもの、陽ざしがほぼなく、ずっと雨の日だ。そんななか、稲の分結が進んだ。田の緑は一段と濃くなって、もう2週間も経つと出穂が始まる。考えて見れば、田植えしてから、刈り取りまでは4か月という時間で稲は一生を終えるので、田を半月ぶりでみたりすると、その様子の変わりように驚くのも当然である。
ここの引っ越してからもう40年も経つが、当時はまだ建物の周りには田が多く残っていた。子どもたちの夏休みが始まると、夕涼みに表にでると、田の畔に蛍が飛ぶのが見えた。捕まえて家に持ってきて観察して楽しんだこともある。少しばかり荒地があって雑木や草むらに雉が住み着いていた。「ケーン、ケーン」という澄んだ鳴き声で目を覚まされたのも、今となっては懐かしい。それよりも、田植え後の蛙の合唱は、田がなければ聞くことができない。
刈り取って米を収穫する以外に、田からは様々な副産物が採れる。街うちの田では、無理だろうが、ドジョウ、タニシ。それからイナゴ。これらは、泥を吐かせたり、手間をかけた佃煮にすることによって貴重な栄養源になる。結婚したばかりの頃、同じ貸家の隣人に誘われて、刈り取った田へタニシ採りに行ったことが忘れられない。しっかり泥を吐かせたタニシは、味噌汁にするとびっくりするような美味であった。
蛍とぶまだ薄闇のやはらかき 能村登四郎
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