高速の東北道を北進して大和インターの辺りまで来ると、西方に頭をポコポコと出す低山が見える。今週目指したのは、この七つ森だ。七つある山には薬師如来の石像が祀られている。この七つの頂上を一日で登り、お薬師さんにお参りすると無病息災が叶うという。宮床の地区民が行う「七薬師掛け」である。里山歩きの楽しさに、ご利益を加えた地区の人たちの知恵である。新緑が目に沁みる5月、さぞかし多くの人が入山しているかと思ったが、わが山の会の貸し切りのような山歩きであった。小なりとはいえ、7座を登り降りするのは我々の年代には無理。南側ダムの湖畔にある駐車場に車を置いて、鎌倉山(313m)、遂倉山(307m)、蜂倉山(289m)の3座を登ることにする。
山に入ると、道は石が多い。標識には「新奥の細道」や「伝説の山」という標記が記されている。帰って調べてみると、この山の伝説についての記載があった。「昔々、朝比奈三郎という力持ちの大男がいた。男は弓の稽古場の的にしようと山を作った。するとタンガラからこぼれた7つの土が山になった。」たがら森というのが、手前の山になっていたので、里の人々はこの伝説を語り継いだのであろうか。3座に登って感じたことは、石が多いことだ。火山と思われるがどの山も低山である。第三紀の300万年のも古い地質との記載もある。それだけの長い時間を経過して、浸食と隆起をくり返した老年山地ということもできよう。
駐車場から歩いて、9時10分に登山口。鎌倉山まで25分。ここで小憩、記念撮影。10時になって遂倉山に向かう。鎌倉山をしっかり下りたところに蜂倉山の登山口がある。ここもさほどの登りではなく所要時間20分。難所は蜂倉山。なだらかで歩きやすい道を過ぎてから急傾斜にかかる。尾根道に入るまでに、切れ落ちた岩肌をトラバース。距離は短いが、張ってあるロープも弛んでいて頼りにならない。岩のつけられた、足掛かりを確めながらハラハラドキドキで渡る。そこからの尾根道は少し急だが問題はない。蜂倉の頂上まで1時間。この頂上で昼食の弁当開き。観音さまを三つお祈りしたので、ご利益もそれなりか。
20年ほど前にこの山を歩いているはずだが、思い起こすのは、仲間が大急ぎで登り、降りたことのみ。一つ、一つに山の特徴や、危険個所など一切記憶はない。山は降りてしまえば、そこの記憶はどんどん消え去っていく。それだけにこの度の再訪は、殆ど初めての発見と、新しい感動の連続である。変化に富んだ山道。深く切れ落ちた渓。仲間の感想に、「山は高さじゃない」とあったがまさにその通り。新緑と山道の脇に咲く、名の知れぬ花々。下り道を安定して歩く体力。まだまだ、山登りの奥は深い。