鳥海山の麓にある湯の台近くの台地で、一面に広がるススキが風に吹かれている荒涼とした光景を忘れることができない。秋が更けてススキの穂が白んでくるころ、風に靡いている姿は人に何かを語りかけているような気さえする。開墾して牧場のように開かれた台地であるが、もうそこへ手を加える人さえなく、群生するススキを刈って屋根を葺く材料とする人さえいない。
そんな強い記憶があるせいか、ススキが穂を出すと、つい見とれてしまう。イノシシが山形でも見られるようになったが、イノシシの巣は深山の奥にススキを刈り集めて作っているという。イノシシの鋭い牙を使うのか、ススキはきれいに鎌で切りそろえたように上手に巣作りをしているということだ。巣は入り口と出口があり、筒抜けのようになっている。これは敵に襲われたときすぐ逃げられるようになっているらしい。
なにもかも失せて薄の中の道 中村草田男
道端の一叢のススキではなく、高原を埋め尽くすようなススキ原である。人影さえないこのような寂しい風景のなかで、人はやはりつながりを求めるもののようである。
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