みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0686「妄想」

2019-10-16 18:30:51 | ブログ短編

「あなた、何でここにいるのよ?」彼女の突然(とつぜん)の質問(しつもん)に彼は唖然(あぜん)とした。
「何でって、ここは僕(ぼく)の家じゃないか…。変なこと言うなよ」
「ここは、あたしの家よ。あなたこそ、変なこと言わないで」
「そ、そりゃ確(たし)かに、もともとここは君(きみ)が住んでたところだけど…。ほら、僕たち結婚(けっこん)してここに住もうってことになって…。だから――」
「結婚?」彼女はいぶかしそうに呟(つぶや)いた。「あたし、知らないわよ。そんなの」
 彼は一瞬(いっしゅん)、真っ白になった。一ヵ月前の結婚式ではあんなに嬉(うれ)しそうにしていたのに。友達からも祝福(しゅくふく)されて、お互(たが)いの両親(りょうしん)もあんなに喜(よろこ)んでいたのに。それが…。
「なあ、どうしちゃったんだよ」彼は彼女を見つめて言った。「僕たち、結婚したんだよ。ほら、結婚指輪(ゆびわ)だってこうして…」
 彼は自分の薬指(くすりゆび)にある指輪を見せ、彼女の手を取って――。だが、彼女の薬指には何もなかった。彼は、彼女を問(と)い詰(つ)めた。「どうしたんだよ。結婚指輪? 僕たちの…」
 彼女は、彼の手を振(ふ)りはらって言った。「知らないわよ。そんなの見たこともないわ」
「冗談(じょうだん)だろ?」彼は必死(ひっし)になって言った。「何か、怒(おこ)ってるのか? だから、そんなこと言って、僕を困(こま)らせようとしてるんだろ。謝(あやま)るよ。何を怒ってるのか分かんないけど、僕が悪(わる)かった。だから、そんなこと言わないでくれよ。僕たち夫婦(ふうふ)なんだから――」
 彼女は、明らかに怯(おび)えていた。彼を突(つ)き飛ばすと、彼女はその場から逃(に)げ出した。
<つぶやき>これは彼の妄想(もうそう)なのか、それとも彼女の夢想(むそう)がそうさせていたのか。謎(なぞ)です。
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