等々力(とどろき)教授の研究室(けんきゅうしつ)に若い女性の雑誌記者(ざっしきしゃ)が訪(おとず)れた。部屋に入るなり彼女は言った。
「こんなところで研究をされてるんですか?」
前回の失態(しったい)で大学から予算(よさん)を削(けず)られ、小さな倉庫(そうこ)へ追(お)いやられてしまったのだ。だが、教授はそんなことでめげるような人ではなかった。
「ところで教授。今はどのような研究をされているんですか?」
「聞きたいかね? そうだなぁ、私の実験(じっけん)を手伝(てつだ)ってくれるのなら、話してもいいが…」
等々力教授のことを全く知らない彼女は、軽い気持ちで引き受けてしまった。教授が取り出してきたのは、ごく普通(ふつう)のカメラだ。教授はそれを彼女に見せて、
「これは人格(じんかく)を吸(す)い取るカメラだ。これで撮(と)られると、今まで押(お)さえ込(こ)まれていた別の…」
「あの、難(むずか)しいことは分かんないんで、やってみて下さい」彼女は可愛(かわい)くポーズをとる。
教授はカメラのシャッターを切った。次の瞬間(しゅんかん)、彼女は豹変(ひょうへん)した。
「あたしはファッション誌(し)をやりたかったの! 科学(かがく)雑誌なんてわけ分かんないし、何でこんなおっさんの相手(あいて)しなきゃいけないのよ。もう、やってらんないわよ!」
彼女は側(そば)にあった椅子(いす)をつかむと振(ふ)り上げた。そこで、彼女の人格が戻(もど)って来たようで、
「あれ? あたし、何でこんなこと…」彼女は戸惑(とまど)いながらゆっくり椅子を下ろした。
その様子(ようす)を見ていた教授は呟(つぶや)いた。「ダメだ。こんな結果(けっか)じゃ使いものにならん」
<つぶやき>これって成功(せいこう)しちゃってるんじゃないの。この教授、ただ者ではないのかも。
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