みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0666「みんな知ってる」

2019-09-23 18:28:47 | ブログ短編

 日村(ひむら)はアシスタントの祐子(ゆうこ)を前にしてネチネチと言い放(はな)った。
「こんな陳腐(ちんぷ)なシチュエーション使えるわけないだろ。初恋(はつこい)だの、初キッスだの、青春(せいしゅん)のなんちゃら、なんてシナリオ、よく書けるな。今はな、もっとドロドロなのが受けるんだよ。あれか? もしかして、お前の願望(がんぼう)が入ってるのか?」
「ち、違(ちが)います。そんなんじゃありません…」祐子は抗議(こうぎ)するのだが――。
「フン、どうせ恋愛(れんあい)なんかしたことないんだろ。そんなヤツが、よく恋愛ドラマが書けるな。どうせ、あれだろ。どっかからパクって来てるんだろ。まったく使えねえなぁ」
「そんな…。私、そんなことしてません…」
 日村は祐子の耳元(みみもと)でささやいた。「あのな、この間(あいだ)のドラマがヒットしたからって、いい気になるなよ。あれは、お前の作品(さくひん)じゃなくて、俺(おれ)の作品だ。忘(わす)れるな!」
 その時、制作会社(せいさくがいしゃ)のプロデューサーがやって来た。日村とにこやかに挨拶(あいさつ)を交(か)わすと、
「いや、この間のが好評(こうひょう)でね。テレビ局から次の話が来てるんだよ――」
 プロデューサーの目が、机(つくえ)の上にあるシナリオに止まった。
「これ、新しいの? いやぁ、助(たす)かるわ。これ、読(よ)ませてくれないかな?」
 日村は慌(あわ)てて、「あの、それは、ボツにしたやつでして…」
 プロデューサーは表紙(ひょうし)に書かれてある作者名(さくしゃめい)を見て、「ああ、アシスタントの…」プロデューサーは祐子に話しかけた。「君(きみ)の作品だね。この間の良かったよ。期待(きたい)してるからね」
<つぶやき>プロデューサーは分かっていたのです。この男に恋愛ドラマは書けないと…。
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