彼は、キャビネットがどこまでも並(なら)んでいる場所(ばしょ)にいた。何でこんな所(ところ)にいるのか、彼にはまったく分からなかった。ここは、何なんだ?
彼は手近(てぢか)なキャビネットの引き出しを開(あ)けてみた。中にはファイルがびっしり詰(つ)まっている。そのひとつを取り出すと、そこには名前(なまえ)や家族構成(かぞくこうせい)、経歴(けいれき)・病歴(びょうれき)などなど、あらゆる個人情報(こじんじょうほう)が記(しる)されていた。
彼は思った。ここには、自分(じぶん)のファイルも有(あ)るかもしれない。キャビネットの上には四桁(けた)の数字(すうじ)が書かれたプレートが置(お)かれている。これは年ごとに分けてあるのか?
彼は自分の産(う)まれた年のキャビネットを見つけると、自分のファイルを取り出した。中を見てみると、まさに自分のことが事細(ことこま)かに記されている。しかも、自分しか知らないはずのことまでも…。いったい、どうやって調(しら)べたんだ?
彼はまた思った。もしかしたら、あの娘(こ)のもあるんじゃ…。それは、彼が付き合いたくて、声をかけ続(つづ)けている娘(むすめ)だった。彼女のことが分かれば、的確(てきかく)にアプローチすることができるはずだ。だが、どういう訳(わけ)か、彼女のファイルは見つからなかった。彼女は偽名(ぎめい)を使っているのか? なぜ…? 今度(こんど)は、経歴(けいれき)で調べてみた。すると、二人が働いている会社(かいしゃ)のファイルを見つけた。じっくり見ていくと社員名簿(しゃいんめいぼ)の中に彼女の名前(なまえ)を見つけた。でも、そにはこうあった。「同社(どうしゃ) 退職(たいしょく)」と…。彼は驚(おどろ)いた。彼女が退職したなんて――。
<つぶやき>これは夢(ゆめ)? 彼女のこと好きなんだね。でも、急(せ)いては事(こと)をし損(そん)じるですよ。
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