私は十年前に別(わか)れた彼女と再会(さいかい)した。これが大変(たいへん)なことの始まりになるなんて、この時はまったく分からなかった。彼女は私と別れてすぐ、別の男と結婚(けっこん)した。友だちからその話を聞かされたとき、私は――。まあ…、いい。もう、過去(かこ)の話だ。
彼女は、何のためらいもなく私に話しかけてきた。昔(むかし)のようにずけずけと…。そして、私が結婚もせず、今も同じところに住んでいると分かると、にっこり微笑(ほほえ)んで、「じゃあ、またね」と…。この時は、彼女とはそれだけだった。
そして、数日後のことだ。私のところにランドセルを背負(せお)った女の子が、突然(とつぜん)訪(たず)ねて来た。その子は、私に手紙(てがみ)を差(さ)し出して言った。「しばらくお世話(せわ)になります」と…。
私は訳(わけ)が分からない。急(いそ)いで手紙を見た。この字(じ)は、見覚(みおぼ)えがある。女の子は部屋(へや)に上がり込んでいく。私はどうしていいのか…。白状(はくじょう)するが、私は子供(こども)は苦手(にがて)だ。やつらは何を考えているのか分からない。どう接(せっ)していいのか、皆目(かいもく)見当(けんとう)がつかないのだ。
女の子はソファーに座(すわ)って、不安(ふあん)そうな目をしてこっちを見つめていた。私は仕方(しかた)なく飲み物でも出してやろうと…。しかし、ジュースなど置(お)いてあるはずもなく、お茶(ちゃ)を出してやった。そして私は、手紙を広げて――。手紙にはこうあった。
「しばらくこの子をお願(ねが)いします。手のかからない子だから心配(しんぱい)ないわ。仕事(しごと)が片(かた)づいたら向(む)かえに行きます。それまで、よろしくね」
<つぶやき>ちゃんと迎えに来てくれるのか? 突然、子育(こそだ)てをすることになるなんて…。
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