「じゃあ、ちょっとその辺(へん)まで見てくるよ」父親(ちちおや)は玄関(げんかん)で靴(くつ)をはくと言った。
母親(ははおや)は心配(しんぱい)そうに、「お願(ねが)いしますね。あの娘(こ)、このところ帰りが遅(おそ)い日が多くて。もう、どうしちゃったのかしら?」
父親が玄関の扉(とびら)を開けると、ちょうど外(そと)に水木涼(みずきりょう)が立っていた。父親と目が合うと、涼はばつが悪(わる)そうに微笑(ほほえ)んで、
「ただいま…。お父(とう)さん、どうしたの…。出かけるの?」
母親が咎(とが)めるように、「なに言ってるの? あなたの帰りが遅いからでしょ…」
「あっ…、私なら大丈夫(だいじょうぶ)よ。心配なんかしないで。もう子供(こども)じゃないんだから」
「子供じゃないから心配してるの」母親は涼の手を取って言った。
この二人は、涼の育(そだ)ての親だ。自分(じぶん)が養子(ようし)だと知ったのは中学の頃(ころ)。涼にとってそれは、それほど驚(おどろ)くことではなかった。小さい頃から何となく、自分はこの二人とは違(ちが)う人間だと感じていた。その感覚(かんかく)がどこから来るのか、やっと腑(ふ)に落ちたのだ。だけど、両親(りょうしん)にそのことを話すことはしなかった。実(じつ)の親でなくても、自分をここまで育ててくれたのだ。それはもう家族(かぞく)以外の何ものでもない。
「お腹(なか)すいたでしょ? ずく温(あたた)め直(なお)すからね」母親は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。
「あっ、お母(かあ)さん、ごめんなさい。友だちと食べてきちゃった。連絡(れんらく)するの、忘(わす)れてたわ」
涼は、学校(がっこう)では見せたことのない素直(すなお)さで言った。その時、玄関のチャイムが鳴(な)った。
<つぶやき>親にとっては、子供はいつまでも子供なのです。子供にとって、親って…。
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