姉(あね)はケーキを前にして思い悩(なや)んでいた。今まで体型(たいけい)を気にしたことはなかったのだが、最近(さいきん)ちょっとぽっちゃりしてきたのを自覚(じかく)し始めたようだ。
そこへ弟(おとうと)が声をかける。「姉(ねえ)ちゃん、何してんの? 眉間(みけん)にシワ寄(よ)せちゃって」
「別に…。これ、叔父(おじ)さんのお土産(みやげ)よ。何か、有名店(ゆうめいてん)の美味(おい)しいケーキなんだって」
「食べないの? 姉ちゃん、ケーキ大好物(だいこうぶつ)じゃん」
「あ、後で食べるわよ。今は、ちょっと…、あれだから…」
「もしかして、彼氏(かれし)とかできた?」
姉は、明らかに動揺(どうよう)を見せた。上ずった声で、「うるさいな。あっち行ってよ」
弟はからかうように、「へえ、そうなんだ。まさか、ダイエットとか考えてんの? ムリムリ、姉ちゃんに我慢(がまん)できるわけないよ」
「なに言ってんのよ。それくらい、あたしにだって…」
「じゃあ、これは食べないんだよね。ダイエットしてるのにケーキはまずいっしょ」
「いやいや、アンタのは向(む)こうにちゃんとあるから。これは、あたしのよ」
「でも、食べないんでしょ。だったら、僕(ぼく)が片(かた)づけて――」
弟はヒョイとケーキをつかんで口元(くちもと)へ。だが、姉の手がそれをはばんで、ケーキは弟の手を離(はな)れ床(ゆか)へべちゃっと落下(らっか)した。姉の叫(さけ)び声が家中に響(ひび)き渡(わた)ったのは言うまでもない。
<つぶやき>叔父さん、このタイミングでケーキはまずいですよ。他の物にしないとね。
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