かすみは部活(ぶかつ)へ向かう先輩(せんぱい)を呼び止めた。そして震(ふる)える手で、手紙(てがみ)を差(さ)し出し、「あの…、これ、読(よ)んで下さい」
先輩の顔なんか、まともに見られない。
先輩は手紙を受け取り言った。「君って、柄本(えのもと)かすみだよな」
かすみは驚(おどろ)いて顔をあげる。まさか、自分の名前(なまえ)を知ってるなんて。だって、話(はな)しもしたことないし、私は遠(とお)くから見てただけなのに…。先輩は微笑(ほほえ)んで、
「妹(いもうと)と友(とも)だちなんだろ。あいつ、いつも君(きみ)のこと話してたから」
妹って? だれ? 誰(だれ)のことなの…。かすみの頭の中で、この言葉(ことば)がグルグルと駆(か)けめぐった。友だちって…、えっ…、もしかして、真奈(まな)のこと?
真奈とは、この告白(こくはく)を勧(すす)めてくれた親友(しんゆう)だった。ダメモトじゃない、告白すべきよって、先輩に渡(わた)した手紙だって一緒(いっしょ)に考えてくれた。かすみは何も言えずに駆け出した。
教室(きょうしつ)に戻(もど)ったかすみは、そこで待っていた真奈に詰(つ)め寄り、息(いき)を切らしながら言った。
「何で! 何で言ってくれなかったの。真奈のお兄(にい)さんなんて、知らなかったよ」
「あら、バレちゃった? でも、ちゃんと受け取ったでしょ」
「そ、それは、受け取ってくれたけど。いやいや、そんなことより、言ってよ。あたし…」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。兄貴(あにき)のことは誰よりも知ってるから。今度、家に遊(あそ)びに来ない?」
<つぶやき>こんなことってあるんでしょうか。憧(あこが)れの先輩と急接近(きゅうせっきん)なんて。最高(さいこう)です。
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