銀座(ぎんざ)商店街の一角(いっかく)に大勢(おおぜい)の若い男たちが集まっていた。彼らは派手(はで)なブランドの服で着飾(きかざ)って、香水(こうすい)の匂(にお)いなんかをプンプンさせていた。全身(ぜんしん)コーデを合わせると、何十万とか何百万とかかかっていそうである。
その中に、一人だけ場違(ばちが)いな感じでリクルートスーツの若者がいた。彼はキョロキョロとあたりを見回して、側(そば)にいた男に訊(き)いた。
「あの、これって何かの面接(めんせつ)ですか?」
その男は自分の髪(かみ)をなでつけながら、「そうだよ。見りゃ分かるだろ」
「ああ、なるほど。で、何の会社(かいしゃ)なんですか? 僕(ぼく)、今就活(しゅうかつ)中で…」
「この商店街の銀座小町(こまち)だよ。おめえ、知らねえのかよ」
「えっ、銀座小町? それって、どういう職種(しょくしゅ)ですかね?」
「この商店街の八百屋(やおや)だよ。そこの看板娘(かんばんむすめ)なんだ。絶世(ぜっせい)の美人(びじん)なんだよ」
「ああ、八百屋なんですか。そうか、八百屋か。それくらいなら僕にも…」
「おめえには無理(むり)だろ。こいつら見てみろ。この中から一人しか選(えら)ばれないんだ」
「はあ、なるほど。それは相当(そうとう)な倍率(ばいりつ)ですね。大丈夫(だいじょうぶ)です。こう見えて僕、何社(なんしゃ)も受けてますから。面接には場慣(ばな)れっていうか。まあ、全然(ぜんぜん)、採用(さいよう)してもらえないんですけど…」
――数日後、その八百屋の店先(みせさき)に、この若者が立っていた。どうやら採用されたようだ。だが、銀座小町とお付き合いすることになったかは、定(さだ)かでない。
<つぶやき>美人には男がむらがるようで。でも、彼女は普通(ふつう)の男性が好みだったのかも。
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