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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0017「いつか、あの場所で…」

2025-03-13 16:05:55 | 連載物語

 「おまつりの夜」4
「どうしたんだ?」高太郎君が優しく聞いてくれた。
 私は彼の服を握りしめていた。なんだか小さな子供みたい。でも、放せなかったんだ。放したらまた一人になってしまう気がして…、
「分からなくて…。分からなくなっちゃって…」
「なになに、何でも聞いてよ」「こいつよりも僕の方が…」「俺もいるから」
「お前、なに抜け駆けしてるんだよ」「うるさいな、俺のアイドルなんだよ」
「いつからお前のアイドルになったんだよ」「お前のじゃないだろ。俺たちのだろ」
「そうだ。俺たちの…」「うるさいよ、静かに…」「お前、近づきすぎ」
「離れろよ」「お前こそ…」「なんだよ」
 男の子たちがふざけ合っている。私を元気づけてくれてるんだ。…みんな優しいんだ。
「お前ら、もういい加減にしろよ」
 高太郎君の一言で静かになる。私は、やっと落ち着いた。
「一人で来たの?」「ううん」
「じゃ、家族と来てるんだ」「なんで一人なの?」「もしかして、はぐれちゃった?」
「ゆかりと来たんだけど…。いなくなっちゃって」
「あいつかよ。しょうがないな」高太郎君が怒ってる。そんなに怒らないで…。
「私もいけなかったの。ゆかりのこと見つけられなくて。探してるうちに道が分かんなくなっちゃって…」
「迷子になったんだ」「俺たちがついてるからもう大丈夫だよ」「僕が案内してあげるよ」
「いや、僕が…」「なんだよ」「あの、これあげる」えっ? …赤い風船。
「これがあれば目印になるだろ。またはぐれてもすぐに見つけられる」「じゃ、俺のも」
「お前らな…」「持ってない奴は黙ってろ」「なんだよ、くそーォ」
「ありがとう」嬉しかった。こんな私のことを…。ほんとに嬉しかった。
「一緒に花火見よう」「行こうよ」「今日はついてるよな」「俺、良い場所知ってる」
「でも、ゆかりが…。私のこと探してるから」
「じゃ、みんなで探してやるよ。どこではぐれたの?」
 高太郎君がみんなに指図する。「商店街だって。じゃ、頼んだぞ」
「おいおい、高太郎は来ないのかよ」
「さくらを一人に出来ないだろ」
「きたねぇ、一人だけ…」「抜け駆けかよ」
「いいから、早く行けよ。黒猫で待ってるから。頼んだぞ」
 みんなは少し不満そうだった。でも、まるで競争のように走っていく。
「黒猫って?」どこなんだろう?
「行けば分かるよ。海岸通りにあるんだ。すぐ近くだよ」私たちは人混みを歩いていく。
「はぐれるといけないから」そう言って私の手を取ってくれた。
<つぶやき>困ってるときは助け合わないとね。でも、見返りを求めちゃいけませんよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

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0016「いつか、あの場所で…」

2025-02-10 16:32:54 | 連載物語

 「おまつりの夜」3
 私たちは商店街に足を踏み入れた。いっぱい人がいる。焼きそば、綿菓子、イカ焼きにたこ焼き…。おなじみの屋台が並んでいる。私たち、もしかして食い気にはしってる? とにかく、食べ歩きの始まりだ。二人して歩き回った。ゆかりはゲームをやって賞品を手に入れた。こういうの得意なんだ。私なんかぜんぜんだめだった。
「あっ! こっち」ゆかりが何かを見つけた。走っていく。
 …待ってよ。私は追いかける。そこには小さな子がいっぱい集まっていた。ぬいぐるみのショーをやっているんだ。クマさんが景品を子供たちに配っている。ゆかりはクマさんの後ろに回って私を呼ぶ。なんで後へ行くの? 私がゆかりの横に立つと、いきなりクマさんの頭をおもいっきり叩いた。
「いてっ」…クマが喋った。私が呆気にとられていると、クマさんが振り返った。私を睨んでいるようだ。ゆかりはいつの間にか消えている。そんな…。私が叩いたって思ってる。クマさんが近づいてくる。私は「ごめんなさい」って、走って逃げた。
 なんで私が謝るの? この時、高太郎君の気持ちが少し分かったような気がした。ゆかり、どこ行っちゃたのよ。もう…。私はゆかりを捜して歩き回った。
 ゆかりが、…いない。どこにもいない! …ねえ、どこ行っちゃたの? ゆかり!
 …だんだん不安になってきた。闇雲に探し回る。どこにもいない。どこにも…。どうしよう。私…、帰れない。ここはどこなんだろう? …方角が分からない。どうすればいいの。ゆかり…。早く出て来て…。お願い…。私を見つけて!
 だんだん暗くなってきた。人はどんどん増えてくる。みんな同じ方向に歩いていく。花火を見に行くんだ。私はその人波に流されて…。どこまで行くの。…ゆかりが見つからない。どこへ行っちゃったの? 周りを見回しても、知らない人ばかり。…怖い。怖いよ。どうしたらいいのか、何も考えられない。昔のことが…、迷子になったときのことが甦る。
 私は必死になってゆかりを捜す。早く来て! もうだめ…。
 いつの間にか海岸まで来ていた。人の波はそこで止まった。…どうしよう。どうやって帰ればいいの。ゆかり! 私は途方に暮れた。どんどん不安がこみ上げてくる。身体が震えてきた。涙があふれそうになって、私はしゃがみ込んでしまった。
「おい、さくらじゃないか?」
「あれ、さくらだよ」誰かが私の名前を…。
「さくら、どうした?」誰かが私に…。
 私は震えながら顔を上げる。知ってる顔…。私の知ってる顔!
「高太郎!」私は思わず抱きついた。高太郎君しか見えなかった。…涙が止まらなかった。周りにいた男の子たちも心配そうに私を見ている。なんだか、恥ずかしくなってきた。なんで涙が出るのよ。私は落ち着こうと、何度も深呼吸した。
<つぶやき>迷子になったら慌てず引き返そう。人生に迷ったら立ち止まり見回そう。
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0015「いつか、あの場所で…」

2025-01-15 16:32:43 | 連載物語

 「おまつりの夜」2
 ゆかりと二人でお手伝い。とっても楽しかったよ。ゆかりのお母さんは面白い人だった。冗談ばっかり言って、私をいつも笑わせる。おばさんの手料理、美味しかったなぁ。ゆかりが料理上手だってことも分かる気がする。いつもお手伝いをしているんだ。私も少しだけ教えてもらった。
「そんなに面白い? またいつでもおいで、教えてあげるから」って、おばさんが言ってくれた。また教えてもらうんだ、絶対。
 おばさんの料理は豪快だ。大きな鍋を使ってどっさり作る。家族が多いから大変だよね。
「こんな田舎の味じゃ、お嬢さんの口には合わないかもね」
「とっても美味しいです」私は正直に答える。ママの味より美味しいかも…。
 ママはたまに手抜きをする。何でも手早くやらないと気が済まないみたい。それでときどきパパに叱られる。ママは、「効率よく家事をしてるの。私がいるからパパも気持ち良くお酒が飲めるんじゃない」って、笑いながらパパにお酒を注ぐ。
 こうなるとパパは何も言えなくなる。ママの笑顔には弱いんだ。この二人、ちょうどいい感じなのかな。言いたいことは言い合うんだけど、あんまり喧嘩にならない。何でだろう? 不思議な夫婦だ。…理解できない。
 お祭りの最後の日。いよいよ花火だ。今日もゆかりの家へ。お昼の後片付けをすませてのんびりしていると、おばさんが冷たい麦茶を持ってきてくれた。
「さくらちゃん、ありがとね。ほんと助かったわ」この三日間、ほんとに大変だった。
「あのーォ、私にも言ってよねぇ。手伝ったんだから」ゆかりがふくれてる。
「あんたはいいの」
「そんなぁ…」
「それより、これからさくらちゃんをお祭りに連れて行ってあげなさい」
「えっ、行ってもいいの?」
「さくらちゃんは初めてなんでしょう、ここのお祭り」
「はい」お祭りに行ける。やったーぁ。
「今からでも楽しめるよきっと。それに花火もあるしね」
 おばさんは私にお小遣いをくれた。お手伝いをしたお礼だって。
「私も手伝った」
「この前、あげたでしょう」
「お祭りよ。欲しいものあるし…」
「しょうがないね。お兄ちゃん達には内緒だよ」
 ゆかりはちゃっかりしてる。さすがだ。
<つぶやき>お祭りって、わくわくしますよね。それは大人になっても変わりません。
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0014「いつか、あの場所で…」

2024-12-05 16:32:57 | 連載物語

 「おまつりの夜」1
 もうすぐ夏祭り。七夕まつりが始まる。私は初めてだから、わくわくしている。いつもは静かなこの町も、この三日間は騒がしくなるんだって。
 商店街には大きな笹飾りが取り付けられて、屋台がいっぱい並ぶの。いろんなイベントもあるんだって。のど自慢とか、ヒーローショー、それに仮装行列。青年団や商店街の人たちが企画したゲームコーナー。聞いているだけで楽しくなってくる。最後の夜には花火が上がるんだって。海の花火! 私は一度も見たことがない。きっと奇麗なんだろうなぁ。
「ねえ、さくらはお祭り見に行く?」ゆかりが聞いてくる。私は、
「どうしようかな…」曖昧に答える。
 実は、一緒に行ってくれる人がいないんだ。パパもママも町内会の手伝いで、私の相手をしている暇はない。一人で行くのは…。
 私、方向音痴なんだ。この町には私の知らない場所がいっぱいある。知らない所に一人で行くのが怖いの。前に住んでいた所で迷子になったことがある。一人で泣きながら歩いていた。道を一本間違えただけだったのに…。
 親切なおばさんが私を交番まで連れて行ってくれた。私が泣いてばかりで、何も話さなかったから…。
 お巡りさんは私にお菓子をくれた。私は、それでやっと落ち着いた。お巡りさんに住所を聞かれたんだけど、まだ引っ越したばかりだったから覚えてなくて。でも、近所にあるお店を覚えていたから、そこまで連れて行ってもらって…。
 なんとか家にたどり着いて、ほっとした。ママの顔を見たらまた泣いちゃった。それ以来、知らない場所に一人で行けなくなってしまったんだ。恥ずかしいけど…。
「私も行きたいんだけどなぁ」
「ゆかりは行かないの?」
「家の手伝いしないといけないから。親戚の人とか、お客さんがいっぱい来るの。ご馳走作るの手伝ったり、いろいろあるのよ。兄ちゃん達はどうせ遊びに行っちゃうし。弟は、あてにならないから」
 …大変なんだ。と思いつつ、ゆかりが料理するところを想像できなかった。
「料理、出来るの?」思わず聞いちゃった。
「失礼しちゃうなぁ。私だって出来るわよ、それくらい」…そうなんだ。
「私も手伝ってあげようか? どうせ一人だから、暇なんだ」
 実は、ゆかりが料理するのを見てみたかった。ちょっとした好奇心。ゆかりには内緒だけど…。
<つぶやき>人それぞれ、得手不得手があるものです。得意なことを極めましょう。
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0013「いつか、あの場所で…」

2024-11-07 16:07:15 | 連載物語

 「雨のち晴、いつか思い出」4
 生命(いのち)って何だろう? 僕には難しいことはまだ分からない。でも、消えてしまったら二度と戻ってはこない、大切なものなんだよね。大事にしなきゃいけないんだ。人はいつかは死んでしまう。悲しいことだけど、どうすることも出来ないんだ。だから、生きている間は、側にいられる間は、笑顔でその人を見ていたい。
 そういえば「一期一会」って言葉をおばあちゃんに教えてもらったことがある。生きている間に出会える人は限られている。生涯に一度しか会えない人もいる。だからひとつひとつの出会いを大切にしないといけない。悔いのないようにしなさいって…。ありがとう、おばあちゃん。
 放課後の教室で、一人で空を眺めていた。雨はやみそうもない。僕はおばあちゃんのことをずっと考えていた。いろんな思い出が甦ってくる。…まだ僕の心には穴が空いている。今の僕にはどうすることも出来ない。思い出すのは楽しいことばかりなのに、おかしいよね。でも、この悲しみもいつか思い出に変わるんだ。おばあちゃんと暮らしたあの時間、あの空気が僕の宝物になる。掛け替えのない宝物…。
 僕は気づかなかった。さくらが来ていたことを…。彼女は僕の隣に座った。何も言わず、ただ横に座った。優しい目で僕を見つめて…。僕も何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。僕たちは外を眺めた。二人ならんで、雨の降る校庭を…。彼女のぬくもりが伝わってくる。彼女の優しさが身にしみた。僕の心、悲しみで濡れた僕の心。少しずつ、暖かくなってくるのを感じた。
 校庭の片隅に紫陽花が咲いている。…今まで気づかなかったなぁ。雨の日なのに奇麗に咲いて、まるで雨の日を楽しんでいるようだ。雨の日に、おばあちゃんと散歩したことを思い出した。
「雨はいろんなものを洗い流してくれるんだよ。自然の緑が生き生きとするように、私たちにも安らぎや活力を与えてくれているのかも…」
 大きく深呼吸した。僕もこの雨から生きる力をもらおう。明日もがんばれるように…。
 さくらが僕に視線を向ける。その目は「大丈夫?」って言ってるようだ。僕は彼女の優しさが嬉しかった。僕はかるく微笑んで、心の中で「ありがとう」って言った。彼女は笑顔で答えてくれた。
「一緒に帰ろう」彼女は僕の手を取った。僕は素直に従った。
 さくらといた時間は、ほんの数分だけだった。でも、とっても長く感じた。僕たちは雨の中、二人で歩いた。いつもの道なのに、いつもと違う。周りの景色が新鮮に見えてくる。僕はいつになくお喋りになっていた。傘の中で彼女が笑う。僕はいつまでもさくらの笑顔を見ていたい。なぜか、そんなことを思っていた。…雨の日が、少しだけ好きになれたかもしれない。
<つぶやき>忙しい毎日。ちょっと深呼吸してみませんか? 心に潤いを与えましょう。
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