徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『島はぼくらと』(講談社文庫)

2018年02月13日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

瀬戸内海に浮かぶ冴島を舞台にし、そこからフェリーで本土の高校に通う島で4人きりの同級生・朱里、衣花、源樹、新を主人公にした小説。これが何の賞も受賞していないのが不思議なくらいの読後感さわやかな素晴らしい作品です。青春小説というくくりだけではもったいない、島で生きる人々の逞しさや優しさや懐の深さ、美しい風景とゆったりと流れる時間が情感細やかに描かれていて、思わずそういう島に移住してみたいと思わせてしまうだけの力があります。

いわゆる過疎地ではなく、島の村長が積極的に外からの移住を助成し、特にシングルマザー支援に力を入れているため、子供も増えてきているというなかなか未来のある島です。それでも島の子供たちは本土のフェリーで通える高校に行くのでなければ、中学卒業後に島を出ざるを得ないので、親たちはそれまでの15年間を大切にしているというくだりも素敵ですし、移住者と元からの島民の間や島民同士、移住者同士でも複雑な人間関係があるにせよ、島の子供たちはみんな「うちの子たち」と見なされる共同体意識とか、こういうところで育っていれば自ずと郷土愛というものも生まれるんだろうな、と思える環境です。

そうした島の情景描写と子どもたちの友情や淡い恋心とかばかりでなく、お話の赤い糸はさる有名な脚本家の「幻の脚本」です。ある日この「幻の脚本」を求めて自称作家の怪しげな人物が冴島にやってきます。なかなかの小物ぶりの鼻につくいやな奴だったので、朱里、衣花、源樹、新の4人はこの人を追い出そうと偽の脚本を作って渡します。彼らはそんなものが島にあるわけないと思っていましたが、それが事実で、かなり身近なところにあったことがあとから意外な形で判明します。それがまた興味深いものでした。

老若男女問わずみんなにお勧めしたい1冊ですね。

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