徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『ツナグ』(新潮文庫)~第32回吉川英治文学新人賞受賞作

2018年01月22日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

辻村深月の『ツナグ』は第32回(2010年)吉川英治文学新人賞受賞作品で、2012年には映画化されたらしいですね。「アイドルの心得」、「長男の心得」、「親友の心得」、「待ち人の心得」、「使者の心得」の5編からなる連作長編小説ですが、最初の「アイドルの心得」は映画化はされなかったそうで。

一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」のお話。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員。

もし一生に一度だけ死者に会えるとしたら、誰に会いたいか、まずはそこからして重い問いです。それができるという前提で進行する物語ですが、依頼者にはそこに至るまでのそれぞれの事情と葛藤があり、それを描写する筆致が素晴らしいです。「アイドルの心得」と「長男の心得」はどちらかというと「ほっこり」する展開ですが、「親友の心得」はどちらかというと心をえぐられるような痛みのある展開、「待ち人の心得」は切なく、そのすべてのエピソードの裏側を描く「使者の心得」で諸々の事情に合点が行き、また仲介者としてその邂逅の前後を目の当たりにする17歳の少年・歩美の感じ、考えたことは何かが語られますが、彼の出した結論は祖母に対する思いやりに溢れていて「ほっこり」できます。

辻村深月の作品を読んだのはこれで3作目ですが、この方は人と人の関りとその関係の中で生まれるあらゆる感情を細かな心の襞まで言語化できる鋭い観察眼と筆力を持っているのだと思います。そして彼女の言葉から感じられるのは包み込むような優しさで、今回もまた泣かされました (´;ω;`)

娯楽性やエンタメ性が極めて低く重いテーマですが、心が震えて、癒される作品です。

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